2022年6月28日、東京大学において「令和4年度 官民による若手研究者発掘支援事業」のキックオフミーティングが開催されました。本事業は、革新的な医薬品、医療機器等及び医療技術をより早く医療現場に届けるための事業・イノベーションの創出を推進することを目的に、アカデミアの有望なシーズの発掘と若手研究者を育成します。本イベントでは、日本医療研究開発機構(以下、AMED)による概要説明や関係者からの挨拶、講話や講義、教育講演、令和4年度採択者の研究紹介などがあり、参加した若手研究者は相互の親睦を図りながら今後取り組むプログラムに向けて理解を深めることができました。

講和

①高山修一氏

国立研究法人日本医療研究開発機構 官民による若手研究者発掘事業 プログラムスーパーバイザー
公益財団法人医療機器センター 医療機器産業研究所 上級研究員

高山氏より、日本における医療機器産業の発展に関するお話をいただきました。日本は胃がんなど死亡率の高い疾患に対する医療機器産業を発達させ、低侵襲な手術を実現してきました。その成功事例には、医工連携が密になされた背景があります。医療機器のイノベーションは、社会課題の解決に直結します。「これからビジネスを立ち上げる皆さんは、全社を挙げてコミットし、医療現場の潜在ニーズに対して他社にはない新技術を開発していただきたい」と熱いメッセージが送られました。

②佐久間一郎氏

国立研究法人日本医療研究開発機構 官民による若手研究者発掘事業 プログラムオフィサー
東京大学大学院工学系研究科附属医療福祉工学開発評価研究センター 教授

佐久間氏より、革新的医療機器開発につなげるための医工連携研究に関するお話をいただきました。研究では、新規制と革新性が重視されます。一方で、医療現場のニーズに応えるためにはシステムの問題点やその解決法を明らかにするという研究者の通常の思考形態とはやや異なる発想も必要となります。有効性と安全性のリスク・ベネフィットバランスも思考するように言及されました。「研究開発の段階で市場規模を推定することは非常に難しいですが、より良い医療福祉の実現や人々のQOLの向上のために信念をもって継続してほしい」と参加者の方へエールが送られました。

③花木秀明氏

国立研究法人 日本医療研究開発機構 官民による若手研究者発掘事業 プログラムオフィサー
学校法人北里研究所 北里大学 大村智記念研究所 副所長

花木氏より、医療機器開発における疫学研究に関するお話をいただきました。花木氏はこれまで、抗菌力測定装置を商品化したり抗菌薬を分解する酵素を検出する技術や診断補助キットなどを作成したりと幅広く活躍されてきました。活動の基軸には、早期診断が完治につながるという信念があります。ものつくりにおいて大切なのは、現場(消費者)のニーズと実現性、コストと操作性・単純性であるとお話がありました。医療機器開発をすすめるにあたっては「既存の商品が正当であると思い込まずに、一歩下がった視点で考えてみてください」とメッセージが送られました。

③加藤二子氏

経済産業省 商務・サービスグループ 医療・福祉機器産業室 室長補佐(医療機器)

加藤氏より、経済産業省における医療機器開発人材支援に関するお話がありました。現在、経済産業省では産業支援の観点からもとして新たな医療機器基本計画重点5分野を注視しています。重点5分野の中のには「日常生活における健康無関心層の疾病予防・重症化予防に資する医療機器」、「医療従事者の業務の効率化・業務負担軽減に資する医療機器」も挙げられており、「国内外の患者さんや現場に貢献するためにシーズを広げつつ、若手研究者の皆様には、国民から預かっている税金を大切に扱いながら開発をしてほしい」と伝えられました。

⑤友安 弓子氏

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED) 医療機器・ヘルスケア事業部 医療機器研究開発課 課長

友安氏より、AMEDにおける医療機器開発人材育成の取り組みについて、法人概要や使命、研究開発課題なども含めて丁寧に説明がありました。AMEDは、基礎研究から実用化までが円滑に行えるように研究開発を促進するサポートを積極的に行っています。特に、若手研究者が参画・活躍するための基盤整備に注力しており、スタートアップへのサポートが充実しています。「ぜひ、たくさんの応募を期待しています」とメッセージが添えられました。

⑥妙中義之氏

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 医療機器・ヘルスケアプロジェクト プログラムディレクター
国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 名誉所員

妙中氏には、医療機器・ヘルスケアプロジェクトに関するお話をいただきました。
医療ニーズに応えるために企業・スタートアップへの開発支援や医療機器開発支援ネットワークを通じた事業化支援を推進する「医工連携イノベーション事業」は、開発の初期段階から事業化に至るまで切れ目のない支援が行われるのが特徴です。医療現場のニーズを誰もが使えるようなサービスに発展させるために、課題の洗い出しや必要な取り組みの整理を専門的な視点を取り入れながら進めていきます。これらは、次世代の医療機器推進拠点の採択やエコシステム体制の連携および人材育成に繋げていく必要があると強く訴えられました。最後には、「何ができるかよりも何をしたいか、何をすべきか、という視点を持ち、新しい市場を定めて欲しい」と参加者に向けて熱いメッセージが送られました。

教育講演

講師

小野 稔氏

東京大学大学院医学系研究科心臓外科 教授
東京大学医学部附属病院 医工連携部長
日本バイオデザイン学会 理事

小野氏には、自身の経験も含めた医療側からの医工連携に関するお話をいただきました。実際に小野氏の関わられた内視鏡下胸部外科支援デバイス開発の裏側やデバイスについて画像や動画も含めてご紹介いただき、開発のリアルに触れることができました。

素晴らしい医療機器を開発するには医工連携や産学連携が肝となります。医療機器開発が難しい一つの要因に、メディカルとエンジニアがお互いに共通言語を持っていないといった点があります。良い課題やアイデアがあったとしても、解釈が異なれば理想的な製品は生まれません。だからこそ、「開発の早期から同じ土俵に上がり、双方の立場をよく理解し協力してものづくりを進めていくことが大切だ」と、チームビルディングの重要性についても具体的なアドバイスを交え語られました。

講義

講師

前田祐二郎氏

東京大学開発サポートコアチーム
東京大学医学部附属病院 バイオデザイン部門 部門長

前田氏には、日本やシリコンバレーにおける医療機器開発の現状や特徴、バイオデザインプログラムにおいて用いられる9つの事業戦略について講義をいただきました。医療機器の事業化には「知的財産戦略」「研究開発戦略」「臨床戦略」「承認戦略」「品質マネジメント」「保険償還戦略」「マーケティング・ステークホルダー戦略」「販売戦略」「競合優位性とビジネス戦略」の戦略が必要となります。講義では、実例も交えながらそれぞれの戦略について丁寧に学んでいきました。

参加者が真剣に講義を聞く姿からは、世の中に本当に必要とされている医療機器の開発手法を学びたいという真剣さが伺えます。

令和4年度採択者と研究紹介

①赤木 友紀氏(東京農工大学 准教授)

テーマ「高い送達効率・汎用性・安全性を兼ね備えた薬剤搭載型バルーンカテーテルの研究開発」

②飯間 麻美氏(京都大学 助教)

テーマ「機械学習による拡散MRI乳がん診断支援システムの開発」

③入江 啓輔氏(京都大学 助教)

テーマ「ひずみ応答性抵抗膜技術によるデータグローブを活用した発達障害児に対するデジタル治療機器の開発研究」

④菅野 恵美氏(東北大学 教授)

テーマ「褥瘡の再発を防ぐナノ型乳酸菌を含有した創傷被覆材の創出」

⑤小西 明英氏(神戸大学 特命准教授)

テーマ「左心負荷を伴わず血管合併症も軽減し得る低侵襲ECMOの研究開発」

⑥関野 正樹氏(東京大学 教授)

テーマ「逆問題的発想にもとづく新規コイル設計理論を応用した経頭蓋磁気刺激用コイルの研究開発」

⑦田川 義之氏(東京農工大学 教授)

テーマ「集束ジェットによる革新的な無針注射技術基盤の創出と展開」

⑧富井 直輝氏(東京大学 助教)

テーマ「非発作性心房細動のアブレーション治療のための膜電位映像化技術の開発」

⑨山本 貴和子氏(国立成育医療研究センター 医長)

テーマ「皮脂中RNAの発現パターン解析によるアトピー性皮膚炎診断のための医療機器の研究開」

⑩渡邉 力也氏(理化学研究所 主任研究員)

テーマ「1分子定量法に基づいたデジタルリキッドバイオプシー装置の開発」

令和4年度に採択された若手研究者より、自己紹介および研究開発課題、研究概要、本事業への期待やニーズが発表されました。発表後には質疑応答の時間が設けられ、活発な意見交換がなされました。