講師

東京大学医学部附属病院 バイオデザイン部門 部門長
前田 祐二郎

2023年1月のメドテックサロンでは、東京大学医学部附属病院 バイオデザイン部門 部門長の前田 祐二郎が、オンラインにて講演を行いました。

講義テーマは「QMS専門家じゃない私が話す 研究者にも必要なQMS始めの一歩」です。
「医療機器とは・医療機器ビジネスへの参入」「医療機器に関する法規制」「医療機器におけるQMS」という流れでお話しました。

まずは「医療機器とは・医療機器ビジネスへの参入」についてです。
医療機器は、医薬品医療機器等法において「人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具」と定義づけされています。普通の家電製品とは違い、生命や健康に大きな影響を及ぼす可能性があることから、機器の安全性の担保は必要不可欠です。そのため、医療機器を取り扱うビジネスでは、「医療機器製造業」や「医療機器販売業」の許認可が必要な場合があります。

次に「医療機器に関する法規制」についてお話しました。
医療機器の製造販売許可を得るためには、「QMS省令」「QMS体制省令」「GVP省令」の要件を満たす必要があります。「QMS省令」は医療機器の製造管理・品質管理の基準に関する省令、「QMS体制省令」はQMSに係る業務を行う体制の基準に関する省令、「GVP省令」は製造販売後の安全管理の基準に関する省令です。製造販売業は多くの収益が得られる分、その責任や負担は大きく、法規制がしっかりと整えられています。

最後は「医療機器におけるQMS」についてです。
基礎研究の段階では、機器の製品化はまだ先の話だと思い、製造販売に関するQMSを意識することは少ないかもしれません。しかし、初期の段階からQMSを念頭に置いて医療機器として要求されていることの洗い出しや、設計開発過程のデータ・資料の蓄積を行っておくことは非常に重要です。実際に製品を製造販売する際、企業と連携するのであれば情報をそのまま渡したり、自分たちで起業して行う場合には必要な資料をスムーズに作成したりすることができます。
医療機器の製造販売を行う際に提出する「製品要求仕様書」や「リスクマネジメント報告書」などの資料と、その記入方法についても紹介しました。
「製品要求仕様書」には、開発する製品に対するユーザーリクエストや、そのリクエストを満たすために必要な機能、リクエストを満たしているかどうかを判断する評価方法、合否の基準などを記入していきます。開発を進める中で、ユーザーリクエストに変更があれば機能や評価方法もあわせて更新し、なぜ製品の設計が変わったのかという履歴がわかるように記録を残しておきます。企業と連携する際には、最終的にでき上がった設計図だけでなく、この「製品要求仕様書」も共有することで設計の意図が伝わり、より良い製品にするための工夫や提案も生まれやすくなります。
「リスクマネジメント報告書」を記入する際には、まず、発生する可能性があるリスクやその頻度・リスクレベルなどを洗い出します。そして、リスクの発生頻度を減らしたり、リスクレベルを下げたりするためにはどうすれば良いか、運用の変更や設計の修正などを検討していきます。
ユーザーリクエストに基づいた設計とリスクマネジメントを並行して行っておくことで、有効性と安全性を兼ね備えた医療機器の開発を行うことができます。

最後に設けられた質問コーナーでは、「履歴がわかるようなデータの蓄積は、具体的にどのように行っているのか」「『製品要求仕様書』は決まったフォーマットがあるのか、自由に項目を変更しても良いのか」といった質問をいただきました。

ご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。