講師

株式会社346(サンヨンロク) 菅野 秀 氏

2022年8月のメドテックサロンでは、講師として株式会社346(サンヨンロク)の菅野秀さんをお招きして、オンラインにて講演を開催いたしました。

講義テーマは「製品開発を加速するデザインの活用法」です。
「製品開発の流れとよくある課題」「製品開発におけるデザインの役割」「デザインを活用して、製品開発を加速する方法」という流れでお話いただきました。

まずは「製品開発の流れとよくある課題」についてです。
製品を市場に届ける場合、メーカーには「製品開発」と「製品流通」の2つの流れがありますが、今回は「製品開発」に焦点を当ててお話いただきました。
製品開発は「ブランド管理→企画→設計→製造→品質管理」の5つの段階に分けることができます。それぞれの段階でやるべきことは多く、専門性を求められるものもあります。
全体を通して関わっている人も多いので、すべてを滞りなく進めることはとても難しいです。リスクが低くなるよう、ポイントを絞って進めることが大切になってきます。

菅野さんは、ご自身の経験から製品開発においてハードウェアベンチャー各社で発生する課題は類似性が高いとの認識をもっており、押さえておくべき課題をいくつか挙げていただきました。

製品開発の上流ではプロダクトアウトでスタートすることが多く、製品を売り込むための市場が見つけられないという課題や、研究者やエンジニアが良い原理を思いついても、市場でどのように使われるのかをユーザー目線で上手く示すことができないといった課題があります。
ほかにも、要件不明瞭のまま開発を進行し、試作を繰り返すことでスケジュールが大幅に遅れてしまうことや、見積もりが甘く、量産コストが想定より上がってしまうことも課題です。

続いて「製品開発におけるデザインの役割」についてお話いただきました。
一般的に日本企業においては、企画や設計といった製品開発の上流ではデザインが活用されますが、下流ではデザイナーの手を離れ、製造や調達の要件に合わせて開発を進めることが多くなります。その結果、デザイナーが当初描いたものとはかけ離れた製品になっているという事態が発生しがちです。
デザイナーは領域を超えて物事を捉え、整理する能力に長けている人が多いです。製品開発のプロセス全体において必要なタイミングでデザイナーが支援を行えるようにすると、一貫性をもった製品開発を行うことができます。

後半は「デザインを活用して、製品開発を加速する方法」についてお話いただきました。
製品の原価は、基本設計の段階で85%が決まるという調査結果があります。基本設計のあとでコストダウンを検討したとしても、その機会は15%しか残されていません。そのため、基本設計の段階で「どういった機能」「どういった部品構成にするのか」をしっかり決めて検証し、不要な機能は捨てたり、担保する品質を検討したりすることが非常に重要です。

この検証の際、デザインを取り入れたプロトタイピングを行うと製品を作るために必要な部品等が明確になり、見積精度を向上することができます。

プロトタイプには、スケッチ、ペーパープロト、レンダリング、原理試作、デザインモック、機能試作などがあります。
その中でも、紙や段ボールで実際の製品と同じ形・サイズの物を作るペーパープロトは、比較的お金や時間をかけずに試作ができ、サイズ感や操作感を確認することができます。
見積精度を向上させるだけでなく、事業リスクやスケジュールの遅延を回避するためにも、有効に活用することが大切です。

講演の最後には、「ユーザーが子どもの場合はどのように検証・評価を行うと良いのか」といった質問や、「デザインと機能の両立は製品を作る上での課題だが、研究者もデザインに着眼点をもっておくことで、本当に必要な機能をあぶり出すことにつながると感じた」との感想が寄せられました。

菅野さん、本当にありがとうございました。