講師

東京工業大学生命理工学院 准教授 藤枝 俊宣先生(R2若手事業)
国立循環器病研究センター 循環動態制御部 室長 朔 啓太先生

2022年12月のメドテックサロンでは、講師として東京工業大学生命理工学院准教授の藤枝 俊宣先生と、国立循環器病研究センター循環動態制御部室長の朔 啓太先生をお招きして、オンラインにて講演を開催いたしました。

講義テーマは「研究継続のための予算取得について」です。

はじめに朔先生より、ご自身の研究がAMED医工連携事業・医療機器開発推進事業などに採択された経験や、AMED評価委員を務められた経験から、予算取得のために重要なことをお話いただきました。


朔先生は、予算取得のためには「明確な臨床課題」「モノづくりをしてくれる企業」「薬事に本気で取り組む体制」「自分自身の臨床分野における立ち位置」という4つの要素が重要であると考えています。
この4つの要素の中でも「明確な臨床課題」は特に大切です。
例えば、血流を100 L生み出せる人工心臓や心拍数を300 bpmまで上げられるペースメーカーを開発したと聞くと夢があるように思えますが、実際には人体や病態に不要な機能であるために、患者の利益に繋がらず、医療機器になったとしても売れないことが予想されます。「明確な臨床課題」があり、本当に患者が必要とするものを開発する研究であることが予算取得においては重要です。また、臨床試験や治験の進め方を明確にデザインしてくれる人と組んで「薬事に本気で取り組む体制」を整えることや、研究成果を講演等で発表して自分がどういった分野のエキスパートなのか「自分自身の臨床分野における立ち位置」を明確にしておくことも予算獲得の上では武器となります。

次に藤枝先生より、令和2年度AMED官民若手事業に採択された研究の概要と、その研究が現在どう進んでいるのか、また事業採択を通じて感じたことをお話いただきました。
国内のてんかん患者約100万人のうち、3割が薬で発作を抑えることができない難治てんかんだと言われています。患者の発作源を特定したり、神経に刺激を与えて治療したりするために脳に貼り付ける電極を使いますが、厚く硬い電極なので、脳を圧迫して患者が吐き気をもよおしてしまうことがあります。藤枝先生はこの課題を解決するため、より薄く柔らかい電極の研究開発を行っています。
AMED官民若手事業の期間を終え、現在は後継事業のAMED基盤技術開発プロジェクトにて、電極をワイヤレスの植込み型にして在宅での診断や治療に活かす研究を進めています。
このような事業として研究を進める中で、研究継続には「ペイシェントジャーニーとマーケット調査」「類似医療機器との比較」「チームビルディング」が大切だと藤枝先生は感じています。

「ペイシェントジャーニーとマーケット調査」は、臨床の先生に現場でのニーズを聞くことや、現行の診断フローを見ながら、どの段階が薄く柔らかい電極のマーケットとなるのかを調査することです。この調査をしっかり行ったことで、完成した電極は現場の医師からの評価が高く、ニーズにマッチした医療機器を開発することができました。
また「類似医療機器との比較」を細かく行っておくと、予算取得のための審査において他社製品との違いを理解してもらいやすいというメリットがあります。
現在進めている研究は、ワイヤレスの装置に給電する方法や、装置から得た情報を保管する方法など、藤枝先生の専門分野から離れた段階へ進んでいますが、それぞれの専門家と一緒に支え合いながら強靭なチームを作っていく「チームビルディング」によって、研究を継続しています。

講演の最後には、「モノづくりをしてくれる企業を見つけるにはどうすれば良いか」「植込み型の電極を開発していく上で懸念点はあるか」などたくさんの質問が寄せられ、丁寧にお答えいただきました。

藤枝先生、朔先生、ご講演ありがとうございました。