講師

早稲田大学大学院経営管理研究科(WBS) 准教授
樋原伸彦

2023年11月のメドテックサロンでは、講師として早稲田大学大学院経営管理研究科 (WBS)准教授 樋原伸彦先生をお招きして、オンラインにて講演を開催いたしました。

講義テーマは、「エフェクチュエーション・ロジック入門」です。
エフェクチュエーション・ロジックとは、米国バージニア大学のビジネススクール(Darden School of Business)で現在教鞭を執るProf. Sarasvathy (サラスバシー)が、彼女の博士論文をベースにして2001年に初めて提唱した経営理論です。

エフェクチュエーション・ロジックに関する説明の前に、まずは、伝統的なビジネス・ロジックであるコーゼーション(Causation)についてお話しいただきました。
コーゼーションは、達成すべきゴールを詳細に定め、そのゴールを達成するために列挙されたリソース・手段・道のり(roadmaps)から、期待リターンを最大化するためのものを選び取っていくという手法で、経営、特に既存事業において成功するためのビジネス・ロジックだと言われています。

しかし、コーゼーションの問題点として、最終的な将来の収益予測はとても難しく、その予測を実現するための計画の策定・リソースの調達を強いられること、実現したものと計画の差を常に責められること、経済状況などの急激な変化に対応できないこと、その結果、当初の願望(思い)もトーンダウンしていくことなどが挙げられます。

このようなコーゼーションの罠に対する一つの解決策として提唱されているのが、新たなビジネス・ロジックであるエフェクチュエーション・ロジックです。
世の中の変化が激しく、何が起こるかわからない状況が深刻化していることも、エフェクチュエーション・ロジックが注目されている理由です。最終的なプロダクトやサービスを先に決めてしまうより、「プロダクトあるいはサービスをどうやってデザインしていくのか」という行動規範の方が、今の世の中に合っているのではないかと考えられるようになってきています。

エフェクチュエーション・ロジックに基づいた行動パターンは以下のようなプロセスを経ます。

  1. 利用可能なリソース、手段を特定する
  2. 自らの野望(aspirations)としてデザイン出来そうな結果を列挙する
  3. 外部環境、アライアンス、不測な事態などに対応しながら、結果をデザインしていく。デザインする結果は状況に応じて変化していく場合が多い
  4.  このプロセスを、コストがあるレベルを超えない限り継続する

上記のようなプロセスが、成功した起業家が歩んできた典型的なパターンになります。

エフェクチュエーション・ロジックを象徴する言葉として、「未来は、予測できないが、創ることはできる」「入手可能なリソースで、実現可能な結果をデザインする」があります。


また、このエフェクチュエーション・ロジックには大きな利点が存在します。エフェクチュエーション・ロジックを用いることで、起業あるいは新規事業開発に携わる際の心理的なバリアが低下します。つまり、「今持っているものから考えればいいだけ」と捉えることができるのです。また、新たなプロジェクトの将来のリターンを予測することから解放され、どれだけ入手可能なリソースを投入していいか、という判断だけに集中できるようになります。(「許容可能なコストの原則」)

次は、エフェクチュエーション・ロジックの5原則について解説します。

  1. 「手中の鳥」の原則 (Means) :自分が今持っている手段(「自分は誰か、何を知っているのか、誰を知っているのか」)からスタートして、可能な結果をデザインする。
  2. 「クレイジーキルト」の原則 (Strategic Alliances) :顧客や競合をパートナーとして捉え、ステークホルダーが提供してくれる資源を柔軟に組み合わせて価値のあるものを作りだす。
  3. 「飛行中のパイロット」の原則 (Controlling) :予測に頼らず、常に状況監視とコントロールを怠らない。それは予想外の機会を知る手段であり、最悪の自体を克服するための鍵。
  4. 「レモネード」の原則 (Contingencies) :不確実性や予期せぬ出来事をリソースと捉え梯子として活用する。すっぱいレモンをつかまされたら、レモネードを作れという格言がある。
  5.  「許容可能なコスト」の原則 (Affordable Loss) :いくらまでなら損してもよいかというハードルを設定して、事業開始・継続を判断する。

これからの時代は、予測した何かを達成するためにロードマップを描いて行うのではなく、「貴方が、未来を変える、創り出す!」と考えなければ新しいことはできません。これが、エフェクチュエーション・ロジックの行動原理を一言で表していると言えます。

最後に、樋原先生が代表理事を務めている「日本エフェクチュエーション協会」は、起業家(及び新規事業担当者、研究者)の行動変容、事業会社の組織変容を後押しし、「知的刺激」を得られる場を提供したいと考えて活動しています。HP(https://www.j-effectuation.org/)では動画も公開中です。

樋原先生、ご講演ありがとうございました。