講師

松井克文氏

東京大学 本郷テックガレージ ディレクター

下川俊成氏

東京大学本郷テックガレージ運営チーム、Todai To Texas運営チーム、ものゼミ運営チーム、株式会社本郷企画部 代表取締役

講師の松井氏がディレクターを務める本郷テックガレージ(HTG)は、東京大学の学生がサイドプロジェクトを行うための秘密基地です。「質より量だ」と語る松井氏が支援してきた学生の中には、起業し、数億円の調達に成功する会社も出てきているそうです。
本セッションでは、「人が欲しいと思うプロダクトを作るためのプロトタイピングを習得すること」を目的として、チームでプロトタイプ製作に取り組みました。午前と午後のパートを通して、本郷テックガレージで用いられるプロトタイピングのプロセスを説明できること、チームでアイデアを共有し顧客と対話できるようになることを目標に、「小さく速く」検証することに特化した実践的なワークショップが進められました。

(1)ポイントは、小さく速く検証すること!コミットメントを得られるものづくりの原則

一般的に、スタートアップが失敗する最も多い理由は「No market needs」だといわれています。資金やチーム力があっても、人々が欲しがるものが作れなければ撤退せざるをえなくなります。人が欲しがるものを作るには、とにかく作ることからはじめて小さく速く検証することが必要です。今回のワークショップでは、「つくる・顧客と話す・意思決定」のプロセスをとにかく小さく速く検証することを実践しました。

また、意思決定においては、ユーザーや顧客が興味を示さなければイテレーションを回して新しい解決策を探り、それでもうまくいかなければピボットするべきだと語られました。事業にたいして「いいね」と言うのは簡単です。利害関係者がよりコミットメントしてくれるようなプロトタイプを作れるようになることが大切です。

(2)実践!ツールのチュートリアルとデザインスプリント

チュートリアル・ワークショプでは、高速プロトタイピングに必要なツールの使い方を習得するのを目的に、プログラミングの入門と基礎を学び、実際に教育向けマイコンボード「micro:bit」や入門用プログラミング言語「Scratch」などを使用しプログラミングを体験しました。

参加者は、マイコンを用いてセンサーやモータをプログラムで制御してみたり、画像や音声を識別するための機会学習モデルを作成してみたり、機械学習プログラムとモータ等のハードウェアを連携させたりする方法を試しました。普段、モノづくりに関わることのない参加者からは「おもしろい!」「こんな世界があるんだね!」という歓喜の声が聞かれたり、モノづくりのおもしろさを感じた参加者からは笑顔が多く見られたりするなど盛り上がりをみせました。

続くデザインスプリント・ワークショップでは、昨日のバイオデザインワークショップで考えられた課題に対して、アイデアの発散と収束を行いました。デザインスプリントとは迅速に学習とプロトタイピングを行うためのメソッドで、一般的に「理解、発散、決定、プロトタイプ、テスト」の順で進めていきます。

まずはチームを知るためのアイスブレイクも兼ねて、各グループ1人30秒で自己紹介とモノづくりに関する思い出を語りました。次に、課題に対して何を作るかアイデアの発散を行います。短時間で多くのアイデアを出す「クレイジー8」という手法が用いられ、参加者は課題解決に資するアイデアを書き出していきました。

(3) プロトタイピング製作と発表

「こんな機能があったらいいのに」「こんなことができたらいいな」と、各グループたくさんのアイデアが出された後は、グループ内に全てを共有。実用最小限の製品(Minimum Viable Product)を製作するために3つの機能まで絞り込みを行います。チームが製作するプロトタイプの仕様が決められました。

各チームが製作するプロトタイプは、認知症で骨粗鬆症のある方が転倒しても骨折しないシステム「犬型ロボット」と、心房細動の早期発見ができる「体表に貼り付けるタイプのデバイス」。どちらもアイデアやユーモアにあふれています。午前中のワークショップで学んだスキルを活かし、段ボールやガムテープなどの工作材料などを用いて参加者は楽しみながらモノづくりに励みました。

完成後は各チームから発表を兼ねたデモンストレーションがあり、お互いにインタビューを行いました。インタビューは、アイデアを検証する際に有効な方法だといわれています。インタビューは課題探索インタビューとソリューション検証インタビューに分けられます。各チーム、一番気に入った点はなんですか?一番分かりにくかった点はなんですか?もし使うとしたら何が一番不安ですか?いくら払ってくれますか?などの質問を投げかけました。新たな気付きが得られ、非常に有意義な時間となったようです。

最後に、本日の活動のふりかえりが行われました。デザインスプリント、プロトタイピング、最終発表を通してうまくいったこと、苦労したこと、気付きなど、参加者はそれぞれに感じたことを付箋に書き出しました。その後、「なぜチームでものを創ることが重要か」「なぜ動くプロダクトをつくることが重要か」「このワークショップから何を学んだか」、それぞれのグループで学びが共有されました。

参加者からは、「現場のニーズに沿ったものを作るには、たくさんの方の声を聞いて作る必要がある」「実際にプロトタイプを作ることで説得力が増し、多くの人からフィードバックがもらえた」「ものづくりというのはなかなか思い通りにいかない。トライ&エラーの積み重ねであることが改めて分かった」といった感想が述べられ、有意義なワークとなったことが伺えました。