2021年3月9日、若手研究者と企業等の交流・連携機会の創出を目的としたマッチングイベント「第2回メドテックマッチング 革新的技術が変えるこれからの医療:若手研究者によるオープンイノベーション」がオンラインで行われました。このイベントでは、本事業に採択された3名の先生がスピーカーとなり、ご自身の研究に関する講演を行いました。
生体模倣ペプチドの網羅探索によるハイパーフレキシブル骨再生マテリアルの開発研究
蟹江 慧
電気細菌学に基づくバイオフィルム殺菌装置の基盤技術研究」「細菌叢における特定代謝を電流で追跡する技術の開発
岡本 章玄
水生生物の接着機構にヒントを得た生体組織接着剤の研究開発
江島 広貴
ゲストスピーカー
名古屋大学 大学院創薬科学研究科
基盤創薬学専攻 助教
蟹江 慧
研究テーマ
・ペプチド情報を利活用した医療材料開発研究
・実験数値化による細胞培養安定生産技術の研究開発
講演の内容
2021年3月のAMED開発サポート第2回メドテックマッチングでは、スピーカーに名古屋大学大学院創薬科学研究科基盤創薬学専攻の助教、蟹江慧先生をお招きして、お話いただきました。
蟹江先生は、名古屋大学で修士、博士号を取得され、2011年からの1年間は大阪大学大学院の紀ノ岡研究室でポスドクとして研究されていました。現在は、名古屋大学大学院の加藤研究室にて助教を務めていらっしゃいます。創薬科学研究科は、2015年に新しくできた研究科ということです。他にも生物工学会という学会に所属されており、いかにして情報を使いながら材料を設計するか、工学の力を使って産業に活かすかという取り組みをされています。
今回の講演では、「生体模倣ペプチドの網羅探索によるハイパーフレキシブル骨再生マテリアルの開発研究」をテーマに、「ペプチド検索コンセプトとその手法」「骨再生促進ペプチドによるバイオマテリアル」「細胞選択的接着ペプチド(人工血管)」「バイオマテリアル評価に必要なプラットフォーム」という流れでお話しいただきました。
冒頭の「ペプチド検索コンセプトとその手法」では、まず血管を例に組織と細胞についてご説明いただきました。タンパク質の中でもペプチドに着目されており、ペプチドによる生体模倣の利点としては、高純度の合成が可能なこと、感染リスクが減少することだと解説してくださいました。蟹江先生の研究コンセプトに関しても図解を用いてわかりやすくご説明いただき、大変興味深く拝見しました。ペプチドアレイについての解説では、独自性のあるものとしては細胞をターゲット物質にするものが挙げられるそうです。実際のペプチドアレイ合成機の動画も見せてくださり、とてもわかりやすく学ぶことができました。
続いて、「骨再生促進ペプチドによるバイオマテリアル」について、医療材料の応用として新規骨髄止血材料の研究を始めた経緯から語られました。利点と問題点をまとめてお話しされ、大変勉強になりました。問題点を解決するために骨再生を有した止血剤を開発してこられたそうです。作製した材料についても図解で解説していただき、中でも蟹江先生の課題は骨再生ペプチドをスクリーニングすることだとおっしゃっていました。動画も見せていただき、どのようなものかを感覚的に理解することができました。さらに論文で発表された研究結果についてもデータや実験結果の写真を交えてご紹介いただき、とても貴重な学びとなりました。
後半では、「細胞選択的接着ペプチド(人工血管)」について研究の背景からお話がありました。研究結果について、わかりやすい図解や具体的なデータを用いて解説いただき、大変勉強になりました。物性クラスターを利用したペプチドスクリーニングの研究についての手法・結果もご紹介くださいました。この研究により、細胞選択的にペプチドを効率よく検索する手法を確立されたそうです。
最後に、「バイオマテリアル評価に必要なプラットフォーム」ということで、蟹江先生のお考えを聞かせていただきました。「実験に使用している細胞は同じ品質なのか」、「実験操作は毎回安定しているのか」、「新規マテリアルを評価する際に何を評価しているのか」ということを意識されているとのことです。蟹江先生の研究室では画像で細胞を評価し、良いものを使用するように取り組んでおられ、最近ではラボラトリーオートメーションも導入されていることも教えていただきました。
蟹江先生、ご講演ありがとうございました。
ゲストスピーカー
国立研究開発法人
物質・材料研究機構 独立研究者
岡本 章玄
研究内容:電気細菌、電気化学、微生物燃料電池、微生物鉄腐食、外膜シトクロム酵素
講義の内容
2021年3月のAMED開発サポート第2回メドテックマッチングでは、スピーカーに国立研究開発法人物質・材料研究機構の岡本章玄先生をお招きし、お話いただきました。
岡本先生は、元々応用化学分野を研究されており、電気化学を研究された後、途中からは微生物学も取り入れて電気細菌学を研究されてきました。東京大学で修士、博士を取得され、2013年からは東京大学大学院工学系研究科の助教でいらっしゃいました。2016年からは物質・材料研究機構にて研究に携わっていらっしゃいます。
今回の講演では、「電気細菌学に基づくバイオフィルム殺菌装置の基盤技術研究」「細菌叢における特定代謝を電流で追跡する技術の開発」について、お話しいただきました。いずれも微生物が生きるために必要な代謝を電流で見る、電流で制御することがカギになるそうです。ハイスループットに測定できる測定器を世界で初めて作り上げたとのことで、独自の技術と組み合わせることで様々な医療分野に活用できることを期待されていました。
前半では、殺菌技術についてお話しいただきました。微生物は地球上に10³⁰匹存在し、ヒトの生活と密着しているそうです。また、病原菌としての細菌は、成熟バイオフィルムという形態をとると厄介で、バイオフィルムの機能として問題になるのは薬剤耐性・薬剤抵抗性であり、薬が効かないものをどのように殺菌するかが大きな課題だと言及されました。そこで岡本先生は代謝反応と電気に注目されたそうで、電気を使えば代謝を止められるのではないかというのが、技術の根本的な原理だそうです。既存技術ではバイオフィルムが壊れても菌が残っているとバイオフィルムが再生してしまったのに対して、電気化学による殺菌は中から細菌自体の活動を止めるという特徴を持つと解説していただきました。金属基板上に電位をかけるだけなので周囲に与える影響は小さく、内視鏡の殺菌などに役立っており、将来的にはインプラントや歯周炎の治療・リプロセスの難しい手術ロボットの殺菌などにも応用していきたいとおっしゃっていました。
後半では、「細菌叢における特定代謝を電流で追跡する技術の開発」についてお話しいただきました。細菌叢がヒトの健康に影響を与えるメカニズムとして「代謝の際に生成される電子」に注目され、診断技術にも応用できるというお考えを聞かせていただきました。開発のポイントになるのは、どう細菌叢を測るのか、どの代謝基質をいれるのか、どういった電子伝達剤であれば電子移動効率を上げられるのかということだと言及されました。データを提示しながらご説明をいただき、大変勉強になりました。既存技術と比較すると、安価にしかも早く、人の細菌叢の特定の代謝活性を検出する技術ということで、便や唾液の検査から、パーキンソン病や軽度認知症など予防的な診断が必要なものに活用できればと考えておられるそうです。他にも、定量的診断や薬剤処方、薬剤耐性菌の検出、殺菌効果の定量化などにも活用を期待されていました。
また、岡本先生らが開発されたハイスループット電気化学測定系は、通常の電気化学測定器の100分の1の省スペース、90分の1のコストを実現されており、特許出願中ということでした。実際の測定データも見せていただき、とても興味深く拝見しました。
最後に「医療機器に付着したバイオフィルム除去に関して、付着したバイオフィルムは界面活性剤では除去できないのか」「バイオフィルム除去の技術は、ペースメーカーの感染予防に使えないか」という質問があり、端的に分かりやすく回答してくださいました。また、細菌の特定の代謝活性を頻繁に安く測定するニーズがあれば、ぜひお声がけくださいとおっしゃっていました。
岡本先生、ご講演ありがとうございました。
ゲストスピーカー
東京大学大学院工学系研究科
マテリアル工学専攻 准教授
江島 広貴
研究分野:高分子材料、生体ナノ粒子、バイオ接着、生物模倣、金属-ポリフェノール錯体
講演の内容
2021年3月のAMED開発サポート第2回メドテックマッチングでは、スピーカーに東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻の准教授 江島広貴先生をお招きし、お話しいただきました。
今回は、「水生生物の接着機構にヒントを得た生体組織接着剤の研究開発」というテーマでお話しいただきました。
冒頭では、合成接着剤について、成分や世界市場規模など基本的な内容をご紹介いただきました。接着剤は、水中で強度が低下してしまうという問題点があることについて言及されました。水中接着剤も販売されていますが、空気中ではギネス世界記録の接着力が約40MPaであるのに対し、水中では空気中の40分の1程度にまで弱くなってしまうということです。そのような中、江島先生が研究されたものは現在約4MPaを達成されているとおっしゃっていました。水中で接着剤が弱くなる原理についても、図解や計算式を用いて詳しく解説してくださり、とても興味深く拝見しました。
海洋生物の接着戦略では、翻訳後修飾反応を利用してタンパク質性接着剤を作り出しており、これは世界的に多く研究されている内容だと教えていただきました。海洋生物の水中接着システムを分析することで、そのメカニズムを模倣して江島先生が世界で初めて作られたのがポリビニルガロール(PVGal)だということです。合成が難しかったそうですが、最適な保護基を見出したことがきっかけになり、大量合成も可能となったとおっしゃっていました。分子構造や実際の数値データを交えてとても分かりやすく解説していただき、理解することができました。
さらに、水中接着であれば体の中でも応用できるのではないかということで、生体組織接着剤の市場について調べられたそうです。既存の生体組織接着剤には、フィブリン系接着剤・シアノアクリレート接着剤があり、生体組織への接着強度もしくは生体への影響などにおいて問題点があることを解説してくださいました。その結果を見て、江島先生は生体適合性と接着強度を両立する接着剤にニーズがあると予測され、今後研究を進めていきたいとおっしゃっていました。
生体組織接着剤の活用が見込まれる場面として、膵液瘻・羊水漏出・肺瘻があるのではないかとヒアリングされたそうです。求められる特性としては、「生体に無害である」「湿潤状態でも接着力がある」「接着が高強度であり迅速である」点などがあり、その一例としてガロール基修飾キトサンを挙げてご説明いただきました。キトサンという既に止血剤として利用されているポリマーにガロール基を修飾して、接着強度がどうなるかを試してみたそうです。規格にそって試験を行ったところ、その他の既存で利用されている接着剤と比べても、かなり接着強度が上がったということで、今後の研究に期待が持てる内容でした。
最後にAMEDでの官民による若手研究者発掘支援事業に関してお話しいただきました。東大病院の開発サポートチームの方々や、秋田大学病院胸部外科の寺田先生、東大病院肝胆膵外科の石沢先生、森先生などの多くの方々にご助言をいただいて、研究を進めているとお話しされていました。
最後に、「ガロール基のモノマーの急性毒性は問題ないのか」という質問があり、「新しい物質で毒性についてはまだわからないため、これから生物学的安全性試験で調べないといけない」とご回答をいただきました。「生体での研究をされていますが、金属やモルタルなどの無機物での接着性はどうか」という質問には、これから試していきたいものとして、例を挙げて解説してくださり、大変興味深く聞かせていただきました。
江島先生、ご講演ありがとうございました。