講師

グロービッツ コーポレーション 春山 貴広 氏

2023年12月のメドテックサロンでは、講師としてグロービッツ コーポレーションの春山貴広さんをお招きして、オンラインにて講演を開催いたしました。
講義テーマは「米国FDA対応と医療機器ビジネス」です。
「医療機器のFDA規則」「米国医療保険制度とアメリカでのビジネス」という流れでお話いただきました。

最初に、アメリカ医療機器ビジネスの成功までの過程にはFDA薬事の他に様々な検討課題があるという点についてお話いただきました。

アメリカ医療機器ビジネスにおいては、「どうやったらFDAが取れるのか」という話が中心になりがちですが、それ以外にもたくさんの課題が山積しているため、製品とビジネスの両方を検討することがとても重要です。

自分たちが詳しい製品や医療ニーズ、ものづくりについては熱心に時間やお金を使いますが、それをどうやって展開していくかというビジネスの話については十分に検討されておらず楽観的なケースが多く見受けられます。

日本では、ビジネスを想定したものづくりをすることが難しい実情がありますが、そもそもビジネスがどういう形になっていくかということを知っておくことは重要です。

また、上流から下流まで、誰が関与して、どの様なモチベーションで動いているのかを考えて開発することも非常に重要です。保険や薬事などさまざまな場面が発生しますが、「それらがどうやって絡んでビジネスを成功させるのか」ということがわかってくると、もしかすると製品のスペックも変わってくるかもしれません。

例えば、FDAの承認と保険収載の条件には少し差があるので、そういった意味でも保険を知らないで承認や開発を終えてしまうと、保険の適用を受けられない可能性もあります。そのため、最後まで知っているということがとても重要になります。


FDAは日本のPMDAとは違って、食品・化粧品・ダイエットサプリメント・たばこ製品・動物医薬品・医療機器・医薬品・レーザー機器など幅広く製品を取り扱っており、アメリカ国民の健康・安全の為のゲートキーパーという存在です。

また、皆さんはFDAについて製品安全を想像しているケースが多いと思いますが、実際にはMDR対応やQMS構築なども管轄しているため、これらを並行して考えていくことがとても重要です。

FDAへの事前相談として申請前の公式な打ち合わせ制度があり、そこでは90日以内の書面レビューが行われます。FDAが懸念しそうな材料を自ら相談してFDAの了承を得ていくことによって、申請をしたときに特に質問を受けることなく短期間で承認を得る。これがプロフェッショナルな仕事のやり方です。

この際に注意しないといけない点は以下の3点です。

  1. 商業的価値・保険収載・他者比較優位性などのビジネスを想定した戦略づくり
  2. 幅広く・数多くFDA経験があることはシナリオ作りにとって重要。これにより交渉尺度が読みやすくなるため、より自社の考えを主張し、FDAが受け入れやすいシナリオを用意できる
  3. 適正な使用目的と比較対象品の選択が土台となるため、その選択に客観性を持つ

これこそがFDA交渉の要となります。

次に、米国医療保険制度が医療機器ビジネスに影響を与える点についてお話いただきました。

公的保険制度が中心の日本と民間保険制度が中心のアメリカでは、関わっている人たちのモチベーションが大きく違います。特に民間保険会社においては、自分たちの出費を最小限にすることを念頭に置いて事業をしているためコントロール性が強いことが特徴です。

アメリカ全土は非常に広いため、どこの誰とビジネスをするかということをあらかじめ決めておかないと砂漠に水をまくような感覚で資金がどんどんなくなっていきます。ソフトボールとベースボールが若干違うように、医療というビジネスにおいても日本とアメリカでは攻め方が大きく違います。

アメリカに進出するにあたっては、「最後まで自分でやり抜く」とは考えずに自分たちの得意なところでイグジットしていくことがとても大事な選択肢です。それがOEM供給なのかライセンス供与なのか、あるいは代理店契約なのか、さまざまな選択肢があるため、どれがベストポジションなのか考えることも経営の一つと言えます。

講演の最後には、「現在相談はしているが、当局からいいアイデアが出てこない。春山さんのアドバイスやご意見をいただけますか」「日米同時開発はどのくらいの割合であるのでしょうか」「資金はどのくらいかかるのでしょうか」など数々の質問が寄せられました。

春山さん、ありがとうございました。