今回は「Medtech Academy Pitch Day 2023」と称してピッチイベントと講演を行いました。

オープニング

・開発サポート研究代表
小野 稔

・若手研究者発掘支援事業 プログラムスーパーバイザー
高山修一様

・経済産業省 医療・福祉機器産業室 室長補佐
加藤二子様

コメンテーター

・Director , co-founder ,
and board member of Stanford Byers Center for Biodesign
Josh Makower , MD

・Director , Policy Research , Stanford Byers Center for Biodesign
Sandra Waugh Ruggles , PhD

・若手研究者発掘支援事業 プログラムスーパーバイザー
高山 修一 様

・プレモパートナー株式会社
桜井 久美 様

 

ピッチイベントでは10名の方にお話いただきました。
ピッチ内容の概略は以下の通りとなります。

秋田大学医学部附属病院 寺田 かおり先生

「免疫染色とAI診断の融合による新規病理診断機器開発に関する研究」についてご発表いただきました。がんの治療法を決めるために必要とされる免疫染色の診断件数は、約10年で2.8倍に増えており、2015年には43万件もの診断が行われました。しかし、この膨大な診断をこなす病理医は2500人と大変少ないのが現状です。さらに、乳がんにおいて確認する免疫染色は4種類もあり、非常に複雑な診断となっています。寺田先生が開発を進めているのは、病理医のサポートとなれるような、膨大な数の診断を迅速にこなせるAI技術です。全世界での乳がん患者の数は約200万人ととても多く、このAI技術には約11億ドルの市場規模があると考えています。

東京大学 竹原 宏明先生

「体内血中分子・薬剤濃度等の継時的モニタリングを可能とするインプランタブル型医療機器に関する研究開発」についてご発表いただきました。近年、在宅医療を望む患者は増えており、2040年頃には患者数が40万人に達すると言われています。在宅医療においては、医師や看護師が専門外の患者を往診することがあります。その際、竹原先生が開発を進めているインプランタブル型医療機器を使うと、採血等の手間をかけずに患者の体内情報を得ることが可能です。診断の客観的な指標として医師や看護師の助けになることが期待されます。このインプランタブル型医療機器を用いて、例えば心不全の診断の指標となるBNP値を在宅で計測するなど、今後、在宅医療の可能性を広げる技術になっていくと考えられます。

理化学研究所 鵜澤 尊規先生

「家庭で毎日ウイルス等を検査可能なスクリーニングキット技術基盤の開発」についてご発表いただきました。この数年、私たちは新型コロナウイルスの脅威にさらされてきました。このようなウイルスの発生は今後も続く可能性があり、ウイルスの蔓延を防ぐためには、高い精度で検査をして隔離することが重要です。鵜澤先生は、精度が高く家庭でも行いやすい検査を広めるために、標的に結合すると蛍光を発色する結合誘起蛍光発生ペプチドと、それを利用したウイルス検査キットの開発を進めています。この検査キットは、ウイルスだけではなく癌やアレルギーなどを検出して、私たちの安全を照らしてくれる技術になると、鵜澤先生は考えています。

東京工業大学 土方 亘先生

「1台で治療・診断・予防を行う人工知能を備えた人工心臓の研究開発」についてご発表いただきました。これまで人工心臓は、心不全患者が移植をするまでの橋渡しとして使われることが多かったのですが、近年では、移植に代わる最終的治療法として考えられるようになりました。しかし、人工心臓はまだ完璧なものではなく、1年で20%、5年で55%の患者が亡くなっています。これは、人工的な素材が血液と接触し、血栓ができることが原因のひとつです。血栓の発生を防ぐために、土方先生は磁気浮上型補助人工心臓を開発しました。さらに、この人工心臓は、血栓ができてしまった場合にそれを感知するインテリジェントアルゴリズムも搭載しています。2022年には特許出願を済ませており、2030年までには薬事承認を取得できるよう今後も研究を進めていく予定です。

京都大学 入江 啓輔先生

「ひずみ応答性抵抗膜技術によるデータグローブを活用した発達障害児に対するデジタル治療機器の開発研究」についてご発表いただきました。発達障害に共通する症状に、発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder, DCD)というものがあります。DCDは、小さい頃からリハビリテーションを受けて治療することが重要です。しかし、発達障害児の数は2015年から2020年までの5年間で約2.5倍にまで増え、治療を行う施設やマンパワーが不足していると言われています。この課題を解決するべく入江先生が進めているのは、データグローブを活用したゲームの研究開発です。「子供達が楽しんで治療ができるゲームを作りたい」という意欲ある企業との共同研究を望んでいます。

東京農工大学 赤木 友紀先生

「高い送達効率・汎用性・安全性を兼ね備えた薬剤搭載型バルーンカテーテルの研究開発」についてご発表いただきました。血管内狭窄によって引き起こされる疾患で、末梢動脈疾患(Peripheral Arterial Disease, PAD)というものがあります。あまり耳にしたことがないかもしれませんが、日本においては約350万人の患者がいると言われています。PADの治療法として血管内でバルーンを拡張させる方法が行われていますが、この治療法は1年後の再狭窄率が50%と大変高いのが特徴です。再狭窄率を下げるため、赤木先生は、薬剤をバルーンに結合させることで疾患部位まで届け、光照射で活性化させる新しいシステムの研究開発を行っています。

京都大学 横山 和明先生

「急性骨髄性白血病における液体生検を用いた患者に優しく汎用性の高い革新的な個別化再発予測システムとその基本原理の研究開発」についてご発表いただきました。急性骨髄背白血病(Acute Myeloid Leukemia, AML)は、血液癌の中で最も多くみられる病です。日本では年間7000件の診断ケースがあり、そのうち3000人が亡くなっています。化学療法や骨髄移植といった治療を行うことで、白血病細胞は急速に低下し症状が抑えられますが、それでもなお、一部の白血病細胞が残ることがあります。この微小残存病変(Minimal Residual Disease, MRD)によってAMLが再発してしまうのです。横山先生は、MRDの検出さえできれば、治療を行うことで生存率を上げることができると考え、MRD検出に使うAIテクノロジーの開発を進めています。

広島大学 花房 宏明先生

「RNA直接検出法を基盤としたウイルスの高速検出デバイスに関する研究開発」についてご発表いただきました。新型コロナウイルスによって私たちを取り巻く医療の認識は大きく変わり、そのひとつとしてオンライン診療が広まってきました。オンライン診療と言っても、現在は体温データと問診が主な診断基準で、正確性に欠けるところがあります。花房先生は、オンラインであっても適切な診断ができるように、マイクロサイズのチャンバーを搭載したウイルス検出デバイスを開発しました。このデバイスによるウイルスの検出結果はオンライン上で医師に共有することができ、診断の助けになります。ウイルスだけではなく、血液検査も行えるようにしてオンライン上で提供できるデータを増やしたり、人だけではなく家畜医療にも利用したりと様々な技術展開を検討しています。

東北大学 菅野 恵美先生

「褥瘡の再発を防ぐナノ型乳酸菌を含有した創傷被覆材の創出」についてご発表いただきました。褥瘡とは脊髄損傷患者の50%以上が患う皮膚障害で、長期間の圧迫により皮膚に発生する損傷です。褥瘡の治療には再入院が必要となり、それに伴う運動機能障害や経済的困難などが報告されています。菅野先生は、重症化や入院加療を避けることを目指して、初期ステージの褥瘡に使用するナノ型乳酸菌を含有したシンプルな創傷ドレッシング材の開発を進めています。この研究に関しては取得済みの特許もあり、2028年には製品として発売することを目指しています。

金沢大学 村越 道生先生

「伝音難聴の簡易非侵襲診断に関する研究開発」についてご発表いただきました。新生児の約540人に1人が難聴で、高齢者も全体の50%以上が加齢性の難聴だと言われています。難聴には、内耳の細胞や神経のダメージによる感音難聴と、耳小骨の離脱や固着による伝音難聴があり、伝音難聴は手術での治療が可能です。しかし、現在使われている伝音難聴の診断機器は感度が低く診断が確実でないため、手術の途中での術式変更や中断などが起こり得ます。さらに、この診断機器は新生児には利用できないため、医学的な介入が遅くなるという点が問題です。これらを解決するため、村越先生はSFIメーターという新しい診断機器の研究を行っています。現在、プロトタイプの開発を進めており、2025年までには製品を発売したいと考えています。

 

ピッチのあいだに行われた講演では、Stanford Byers Center for BiodesignのSandra Waugh Ruggles先生に「アカデミアがシーズを事業に置き換えていく上でのいくつかの選択肢」というテーマでお話いただきました。

事業化に向けた技術革新を起こすために大切なことは3つあります。
まず、「アイデアを効率よく試していくこと」です。研究の初期段階から成功のための基準を設定し、その基準に向かって研究を進めていくようにします。研究においての課題は小さな部位に分け、少しずつテストをしていくことが重要です。1つ1つは小さな部位でも、最終的に組み合わせることで大きな製品を作り出すことができます。
次に、「諦めずに何度も繰り返すこと」も大切です。研究を進める際にはまずテストをしてみて、テストの結果から学び、学んだ技術を製品に適用していきます。途中で障害にぶつかっても諦めず、少し前に戻って、違うアプローチでもう一度やってみるようにしましょう。
そして最後は、「チームを大切にすること」です。チームにおいては、それぞれの役割と責任を明らかにしておきます。チームの進め方に同意できない場合は反対の意思を示すことも必要です。様々なバックグラウンドを持ったメンバーの意見を受け入れながら、一緒にプロジェクトを進めていきます。
この3つを意識して研究を進めていくことが、技術革新、そしてシーズの事業化に繋がります。

クロージング

・AMED 医療機器・ヘルスケア事業部課長
友安弓子様