講師

一般社団法人MedTech Links 代表理事 植村 宗則氏

2024年5月のメドテックサロンでは、講師として一般社団法人MedTech Links 代表理事 植村宗則さんをお招きして、オンラインにて講演を開催いたしました。
講義テーマは「いま知っておきたい、SaMDのビジネスモデルと医療機器から得られるデータに関する潜在的課題」です。

講義は以下の流れでお話しいただきました。

  1. 医療機器産業の特徴・特殊性(医療業界の現状・課題、他業種との比較)
  2. 医療機器産業への参入の仕方(費用、期間等の準備)
  3. プログラム医療機器(SaMD)の市場動向(ビジネスモデル、認知行動療法等)
  4. 医療データの利活用に関する国内外の動向(二次利用の仕方、個人情報等)

初めにお話しいただいたのは、医療機器産業の現状についてです。日本の医療機器の現状では輸入超過が起きていますが、国内における医療機器の生産パーセンテージや輸出数については右肩上がりになっています。

日本国内の人口は減少の一途であり、人口が減ると需要が減るはずではあるが、過去5年と比べても国内需要は9%、国内生産は6%、輸出は10%上昇しています。医療費は2030年にはGDPの15%を占める予測が立てられており、社会保障給付費については118兆円を上回る水準となっています。つまり、医療業界はかなりの成長産業だと言えます。

とはいえ、世界の肥大化(疾病のシフト)についても目を向けなければいけません。2010年には1690万人が外科的医療を必要とする状況から死亡しており、これは全世界の32.9%にあたり、歴史的に問題であった感染症による死亡数をはるかに凌駕する数字です。現在は50億人が、必要な時に外科医療にアクセスできない状況になっています。

今後は、こういった外科医療の世界的な不均衡の是正を公衆衛生の重要な目標にしなければいけません。そのためには、外科医療にアクセスできるサービスの展開、ICTの活用、流通の見直しなどが必要です。
直接的に医療機器を開発せずとも、外科医療にアクセスできる仕組みをどうやってつくるのかということを考えていくのもニーズを満たすための一つのポイントになると考えられます。

次にお話いただいたのは「SaMD」と呼ばれる医療機器プログラムについてです。グローバルベースのプログラム医療機器の市場規模は今後増加する見込みですが、日本市場だけを見ても同じような成長予測が立てられています。SaMD品目の相談件数と承認件数は増加傾向にあり、相談に応じて承認件数も増え徐々に市場投入が進んでいます。

従来の一般的な医療機器の流通は、製造業者→製造販売業者→販売業者→ユーザー(医療機関)の流れになっていますが、プログラム医療機器はそうではありません。開発事業者が利用許可をとれた場合、直接ユーザーに届けることが可能で、さらにユーザーからのフィードバックが存在することもあります。

続いて、SaMDのビジネス考察についてもお話いただきました。一般的な医療機器というのは、手術中に同じものを2~3回使用することがあったり、高額な値付けをしたりできますが、プログラム医療機器のアプリは一般的な医療機器と比べて低価格帯です。日本の市場では、アプリを購入するユーザーの感覚は400~500円程度が一般的となっており、こういった価格帯の文化が根付いています。

また単回使用の場合、医療機器は何度も投入できるので消費量としても高くなりますが、アプリの場合は一度インストールして、その後削除した場合でもアカウントが生きているので無料でダウンロードができてしまいます。一方でサブスクリプションがある場合も、治療の期間というのはある程度決まっているので、治療が終わると継続しない方が多いです。

このようにSaMDの場合、値付けと継続して使用してもらう仕組みが難しいものとなっています。
講義の最後には、「ビジネス化によって利益が医療者に入る一方で、それが患者側にも利活用されて医療費が還元される構造を想定する場合、それは一企業を超えた国レベルの話になるのでしょうか?」といった質問や、「規格がなく、周知もされていない重要なデータを制度化して保護することはあり得るのでしょうか?もしくは、一企業のレベルで抱えていいものなのでしょうか?」といった質問がされました。

植村先生、ありがとうございました。