2023年6月20日、東京大学にて「令和5年度 官民による若手研究者発掘支援事業」のキックオフミーティングが開催されました。本事業は、革新的な医薬品、医療機器等及び医療技術をより早く医療現場に届けるための事業・イノベーションの創出を推進することを目的に、アカデミアの有望なシーズの発掘と若手研究者を育成します。本イベントでは、日本医療研究開発機構(以下、AMED)による概要説明や関係者からの挨拶、講話や講義、教育講演、令和5年度採択者の研究紹介などがあり、参加した若手研究者は相互の親睦を図りながら今後取り組むプログラムに向けて理解を深めることができました。
講話
①高山修一氏
公益財団法人医療機器センター医療機器産業研究所 上級研究員
国立研究法人 日本医療研究開発機構(AMED)
医療等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業
プログラムスーパーバイザー
高山氏から、かつて3人の社内ベンチャーだったオリンパスの胃カメラ事業が、今や8,000億のビジネスになっている例を基に、日本における医療機器の国際競争のお話をいただきました。「潜在ニーズが大きいほどシェアが取れる可能性がある」と語られていました。
②佐久間一郎氏
佐久間氏は大学時代の失敗談から、革新性を追求した医療機器開発の医工連携のお話をされました。現場のニーズに応えるために信念を持って継続することが重要で、医療機器の効果は機器の性能だけではなく使い方、医療技術の改善が不可欠であるとの事です。また、承認を得るにはリスクベネフィットバランスが重要で、リスクベネフィットバランスでは、「何ができるかではなく、何ができないか」を考えることも必要だとお話しされていました。
③花木秀明氏
学校法人北里研究所 北里大学 大村智人研究所 副所長感染創薬学:教授
感染制御研究センター:センター長
COVID-19対策 北里プロジェクト 総括責任者
花木氏より、北里研究所での疫学研究に関するお話をいただきました。花木氏は、感染症、MRSA、耐性菌、疫学を専門としており、創薬、迅速診断法の開発をしています。現在はMAED COLE創薬プロジェクトの活動をしており、5年後、10年後を見据えて考えることが重要との事でした。「研究室だけでやっていると手前味噌になってしまう。皆さん、困ったらPSDOに相談してください」とメッセージが送られました。
④友安弓子
医療機器・ヘルスケア事業部 医療機器研究開発課長AMEDの基礎研究課題の概況についてお話しいただきました。若手の採択率が低いものの、希望の持てるお話を3ついただきました。1つ目は今年度の補正予算について、2つ目は採択事例が2つあった事、3つ目はAMED大賞が毎年5名出ている事です。
「AMEDは皆さんの味方。一番の理解者。一緒に次に行きましょう。」と熱いメッセージをいただきました。
教育講演
講師
小野 稔氏
東京大学大学院医学系研究科心臓外科 教授東大病院医工連携部長
東京大学バイオデザイン学会 理事
東京大学臨床医工連携研究機構
小野氏は、ご自身の経験から「メディカルとエンジニアリングの戦いの中から医工連携は生まれる」というお話をいただきました。
医工連携のギャップに悩んだ経験、日本初のマニュピレータ開発があと一歩で開発中止になった事や錨型カシメ縫合デバイス特許取得のお話、医工連携はお互いに思い描くイメージが違うので、同じ土俵に上がり、お互いにリスペクトする事で開発が加速度的に進むなど、ご自身のたくさんのご経験から、貴重なアドバイスをいただきました。
令和5年度採択者と研究紹介
①佐藤 康史(旭川医科大学 先進医工学研究センター 助教)
テーマ「生体内組織形成術による成長する小児用人工弁の研究開発」②高松利寛(東京理科大学 生命医科学研究所 講師 兼 国立がん研究センター 内視鏡機器開発分野 特任研究員)
テーマ「近赤外ハイパースペクトラルイメージングによる腸管神経叢の非染色可視化システムの開発」③山子 剛(宮崎大学 准教授)
テーマ「「健康寿命の延伸」に貢献する医工連携バイオメカニクス研究の推進と社会実装」④佐藤可野(順天堂大学医学部産婦人学 助教)
テーマ「卵胞発育を誘導する新規腹腔鏡下デバイスに関する研究開発」⑤桑波田 晃弘(東北大学 工学研究科 電気エネルギーシステム専攻 准教授)
テーマ「転移リンパ節治療と磁気加熱がん治療」⑥広田 雅和(帝京大学 医療技術学部 視能矯正学科 講師)
テーマ「視覚障害リスクの増加に対する課題」⑦甲斐 健吾 (宮崎大学医学部外科学講座 助教・教育医長)
テーマ「骨盤内悪性腫瘍切除術」⑧糀谷 泰彦(京都大学大学院医学研究科 特定助教 )
テーマ「体表心電図を用いた不整脈診断が抱える課題」講義
講師
前田 祐二郎氏
医療機器に必要な9つの事業戦略(開発サポートコアチーム)官民による若手研究者発展支援事業
社会実践目的型の医療機器創出支援プロジェクト
シリコンバレーにおけるバイオデザインの医療テクノロジー、9つの戦略について講義いただきました。医療機器の事業化には「知的財産戦略」「研究開発戦略」「臨床戦略」「承認戦略」「品質マネジメント」「保険償還戦略」「マーケティング・ステークホルダー戦略」「販売戦略」「競合優位性とビジネス戦略」が必要になります。
スタートアップ失敗の多くはニーズ調査不足によるものが原因ですが、ニーズがあっても技術不足で失敗することもあります。
スタートアップの実績として、IPOやM&Aの数も紹介され、資本を持たないスタートアップはM&Aによっていち早く商流に乗せることも大切であるというお話をいただきました。
講和
妙中義之氏
国立循環器研究センター 名誉所員国立研究開発法人日本医療研究開発機構
医療機器・ヘルスケアプロジェクトPD
妙中氏からは、若手育成事業への期待と題し、医療ニーズに応えるための企業・スタートアップへの開発支援や、医療機器開発支援ネットワークを通じた事業化支援を推進する「医工連携イノベーション事業」は、開発の初期段階から事業化に至るまで切れ目のない支援が行われることが特徴であると、若手育成事業への期待を語っていただきました。