講師
スタンフォード大学循環器科主任研究員
MedVenture Partners株式会社取締役チーフメディカルオフィサー
池野文昭
2022年10月のメドテックサロンでは、講師としてスタンフォード大学循環器科主任研究員、MedVenture Partners株式会社取締役チーフメディカルオフィサーの池野文昭先生をお招きして、オンラインにて講演を開催いたしました。
講義テーマは「医療機器で日本を豊かにする!」です。
「医療現場の課題とデジタルテクノロジーの普及」「Needs-DrivenとTech Push」「製品発明の流れ」についてお話いただきました。
まずは「医療現場の課題とデジタルテクノロジーの普及」について、日本とアメリカの医療現場を比較しながら説明いただきました。
日本の医療現場における課題として、医師の業務負担が大きいことが挙げられます。日本の急性期ベッド1台あたりの医師の数は、アメリカの約4分の1です。さらに、アメリカと比べて患者の入院日数が長く、空きベッドが少ないことから、日本の医師は常に多忙であることが分かります。業務負担を軽減するためにデジタルテクノロジーを用いた効率化が進められていますが、世界的に見るとまだ遅れを取っている状況です。
一方アメリカでは、あまり医療費をかけないよう、なるべく早く患者を退院させる傾向があります。しかし、あまりにも退院が早いと、自宅で状態が悪化して再入院するケースも多いです。アメリカの公的保険(CMS)は、退院した患者が30日以内に再入院した場合、その病院に対してペナルティを与えています。病院は再入院を防ぐため、退院後の患者に服薬を促すアプリを利用するなど、デジタルテクノロジーを活用してきました。
次に、「Needs-DrivenとTech Push」についてお話いただきました。
前述のアメリカでのケースのように、困っている事が起点となり、それに対して新しいテクノロジーで不便をなくすことを『Needs-Driven』と言います。
反対に、科学者や研究者が自分の専門範囲の研究・テクノロジーを困っている事に応用できないかと考えるのが『Tech Push』です。
大学や企業はTech Pushで創薬・医療機器開発を行うことが多いですが、技術志向に偏りすぎると市場のニーズに合わないという弱点があるので、気を付けなければなりません。
最後に「製品発明の流れ」について説明いただきました。
医療機器等の事業化を成功させるためには、市場のニーズをしっかりと把握・吟味した製品を発明することが大切です。
ニーズを見つけるため、開発者は医療従事者の中に交じって現場を観察します。この段階ではニーズを見つけることに徹底し、ニーズの評価は行わないことが重要です。自分の知識や経験でフィルターをかけて評価してしまうと、新しい発見の可能性を捨ててしまうことになりかねません。
ニーズを見つけ出すことができたら、市場分析やステークホルダーの調査といった視点でそれぞれのニーズを評価し、価値のあるニーズに絞っていきます。
そして、残ったニーズに対する解決策を探します。解決策を探す際に役立つのが“ブレインストーミング”です。池野先生は、ブレインストーミングをする上で「Go for Quantity」が重要であると考えていらっしゃいます。アイデアの質(Quality)を無視して量(Quantity)を出すことによって、その中に面白いアイデアが紛れ込む確率が上がるという考えです。
このように、たくさんのアイデアを特許や薬事、ビジネスモデルの観点からスクリーニングすることで製品の発明が行われます。
発明した製品を事業化して社会に普及させ、世の中を変えることで初めてイノベーションが起こります。池野先生は、エンジニアや医療従事者、研究者、ビジネスマンなど、様々なバックグラウンドを持つ人々にビジネス戦略の立て方や知財・薬事に関する教育を行い、イノベーションを起こす人材育成を進めています。
最後に設けられた質問コーナーでは、「日本において医療機器の開発スピードを上げるためにはどうすれば良いか」「医療に関する情報利用において、アメリカと日本で違いはあるか」など、たくさんの質問が寄せられ、丁寧にお答えいただきました。
池野先生、ご講演ありがとうございました。