2024年8月27日、若手研究者と企業等の交流・連携機会の創出を目的としたマッチングイベント「第8回メドテックマッチング 若手研究者による革新的医療機器開発への挑戦」がオンラインで行われました。
このイベントでは、本事業に採択された2名の先生がスピーカーとなり、ご自身の研究に関する講演を行いました。
冒頭ではモデレーターの三澤より事業説明をいたしました。
近赤外ハイパースペクトラルイメージングによる腸管神経叢の非染色可視化システムの開発
高松 利寛 氏
表在性転移リンパ節に対するコンパクト磁気加熱プローブを用いた磁気加熱がん治療法の創製
桑波田 晃弘氏
ゲストスピーカー
産業技術総合研究所 主任研究員
高松 利寛 氏
研究開発課題名:近赤外ハイパースペクトラルイメージングによる腸管神経叢の非染色可視化システムの開発
講演の内容
今回の講演では「 近赤外線を用いた神経叢の非侵襲型測定デバイスの開発」というテーマでお話いただきました。
最初に、ヒルシュスプルング病の手術における手術時間の短縮や新生児の機能温存に寄与するイメージングデバイスを導出するという本ミッションについてお話いただきました。
ヒルシュスプルング病とは、生まれつき神経の欠損で腸閉塞になる病気です。治療としては腸の正常部まで切除し、肛門と吻合することで根治しますが、移行帯を残すと排便障害のリスクが生じるため、現在は術中に迅速病理診断を行い、正常部を確認して吻合しています。
迅速病理診断の問題点は以下の4点が挙げられます。
- 迅速病理診断で判断するまでに時間がかかる(1回の検査に約30分)
- 組織採取部は経験則で決めているので外すこともある(診断に4時間かかることも)
- 病理で神経分布を判断するのは専門知識が必要
- 夜間救急で病理医がいるとは限らない
こういった状況を打破するために、東京慈恵会医科大学の炭山 和毅先生と、国立成育医療研究センターの下島 直樹先生が行っていた研究は共焦点内視鏡を用いた神経叢可視化の検討です。
共焦点内視鏡の問題点としては、共焦点内視鏡の深度は60㎛と浅いため、個人差で見えないリスクが生じることと、共焦点内視鏡をイメージングする際には染色が必要ですが、染色剤の体内投与は認可されていないことです。
そこで、タイトルにもある「近赤外ハイパースペクトラルイメージングによる腸管神経叢の非染色可視化システムの開発」がこれら問題点の解決に至る方法なのではないかということで現在この研究が進められています。
通常のカメラは青・赤・緑の情報しかありませんが、ハイパースペクトラルイメージングは1画素ごとに分光情報を取得することができるので細かい分析が可能になります。
また、通常400㎚~750㎚が可視光ですが、それよりも長い波長帯の光は分子振動に由来する吸収スペクトルが観測されているため、このスペクトルを解析すると成分分析をすることが可能です。さらに、1000㎚~1400㎚には生体透過性の高い窓があると知られており、可視光だと透けない一方で、近赤外光の場合は厚みが10mmほどあったとしても透かして見ることができます。
次に、近赤外ハイパースペクトラルイメージングを実臨床で検証するための今後の課題をお話いただきました。現行のハイパースペクトラルイメージング装置は大型のものやデスクトップ型のものがありますが、実際に医療に応用するとなった場合には可搬的なイメージングデバイスが必要となるため、硬性内視鏡や軟性内視鏡などが必要であると考えられます。
今後の将来展望としては、ヒルシュスプルング病の症例が出たときには、近赤外ハイパースペクトラルイメージングによって正常部と異常部の判別をシステムで行うようなデバイスを創出したいと考えています。
続いて、神経可視化内視鏡システムの市場規模についてお話いただきました。
小児用医療機器の市場規模はそこまで大きくないものの、医療機器承認の手数料補助(9割程度)やPMDAの優先的な承認審査、保険償還価格の優遇などのメリットも存在します。これにより低コスト、短期間での薬事承認が可能となります。
今回の知見を有効活用できる見込みのある応用先については、消化器外科領域(腹腔鏡手術)では深部のがん、重要組織の可視化。消化器内科領域(内視鏡検査)では深部病変の可視化、消化管運動機能異常の検査。心臓外科領域(小切開低侵襲心臓手術)では深部血管の可視化、刺激伝達系の可視化が挙げられます。
最後に、「可視光率を観察したときと同じぐらいの解像度は実現できますか?」、「3D超音波機器を付加して、さらに深部構造を明らかにすることは可能でしょうか?」、「複数の機種の内視鏡で互換性を持たせて装着することは可能でしょうか?」といった質問が挙げられました。
高松先生、ありがとうございました。
ゲストスピーカー
東北大学 准教授
桑波田 晃弘氏
研究開発課題名:表在性転移リンパ節に対するコンパクト磁気加熱プローブを用いた磁気加熱がん治療法の創製
講演の内容
今回の講演では、「 磁場と磁性ナノ粒子を用いたがん治療デバイスの開発」というテーマでお話いただきました。
最初に、「磁場と磁性ナノ粒子を用いた生体応用」についてのご説明がありました。
実際に医療現場で用いられている磁場として一般的なものはMRIですが、磁性ナノ粒子をMRIの造影剤として使うことで診断結果を向上させるといった研究や、体内にある磁性ナノ粒子を磁場で加熱することで発熱させて治療を行うといった研究に取り組まれています。
また、がん患者の死亡原因の約9割は転移に起因しており、リンパ節転移は遠隔転移に先行して生じるため、初期段階におけるリンパ節転移の治療戦略が喫緊の課題です。現在行われている治療としては放射線治療が一般的ですが、それに対して化学療法や免疫療法を併用することでより効果が得られると考えられています。
ただし、放射線治療設備は大型で取り扱いが困難であるため限られた施設でのみの実施となる点が課題です。そこで、放射線を使わない治療方法として本研究(磁気エネルギーによる加熱を用いたがん治療)が行われるようになりました。
本研究は、リンパ節/がん腫瘍へと投与された磁性ナノ粒子がリンパ管を介して転移リンパ節へと集積し、その集積された磁性ナノ粒子を外部から加熱することで治療をするといった新しいがん治療の選択肢となっています。
従来の放射線治療機器は、機器自体が3億円と非常に高価なものとなっており、治療原理はDNA損傷、副作用は被爆などが挙げられます。局所治療が可能なものもありますが、放射線が通った部分に関してはどうしても被爆の問題がある一方、放射線は身体の深部にまで届くため深部の治療も可能です。治療場所は放射線管理区域のみとなります。
対する磁気加熱の治療原理は加熱(43~45℃)で副作用は少なく、局所治療も可能です。ただし、深部に関しては課題が残っているため、現在は頭頚部がんや乳がんのような表在性のがんをターゲットとしています。治療場所は手術室や病室です。
次に、安全な治療を行うために現在開発している温度モニタリング技術についてお話いただきました。
腫瘍に対して高い温度で加熱することで正常な細胞ごと傷つけてしまいますが、低い温度の加熱では十分な治療効果が得られないため、体内でどのような温度になっているのかという正確な温度検出が絶対的に必要となります。それに加えて、低侵襲であることや高精度であること、リアルタイム性があることが重要です。
従来の温度測定方法として、光ファイバー温度計やMRIを用いた手法がありますが、これらは磁気加熱治療との併用は原理的に難しい部分があります。そこで本研究では、体内に投与されている磁性ナノ粒子から得られる直の信号を計測することで、体内の温度を計測する手法を応用しています。なお、動物実験においてはサーモカメラによる表面温度の計測も併用しています。
次に、「パルス交流磁場発生システムの開発」についてお話いただきました。
既存の装置から小型の装置へと改良するためには効率を上げる必要があるため、現在は試作的な電源とシミュレーターを用いて電源を開発しています。
従来は正弦波の磁場を引火する手法が用いられていましたが、本研究ではパルス型の磁場を引火することで、より効率よく磁性ナノ粒子を加熱してシステムを小型化するということを目標にしています。
最後に、「磁気ビーズを特異的に対象部位に集積させる方法を検討する予定はありますか?」、「リンパ節で覚醒範囲はガイドラインで決められているのでしょうか?」、「より深い部位の治療を可能にしていくには何が必要なのでしょうか?」、「実用化へのハードルはどのように考えられていますか?」といった質問が挙げられました。
桑波田先生、ありがとうございました。