2023年8月29日、若手研究者と企業等の交流・連携機会の創出を目的としたマッチングイベント「第7回メドテックマッチング 若手研究者による革新的医療機器開発への挑戦:薬剤搭載型バルーンカテーテル・褥瘡の再発を防ぐ乳酸菌を含有した創傷被覆材」がオンラインで行われました。このイベントでは、本事業に採択された2名の先生がスピーカーとなり、ご自身の研究に関する講演を行いました。

冒頭では開発サポートの澁澤より事業説明を致しました。

高い送達効率・汎用性・安全性を兼ね備えた薬剤搭載型バルーンカテーテルの研究開発
赤木 友紀

褥瘡の再発を防ぐナノ型乳酸菌を含有した創傷被覆材の創出
菅野 恵美

ゲストスピーカー

東京農工大学 准教授
赤木 友紀

研究分野:高い送達効率・汎用性・安全性を兼ね備えた薬剤搭載型バルーンカテーテルの研究開発

講演の内容

2023年8月の第7回メドテックマッチングでは、スピーカーとして東京農工大学 准教授でいらっしゃいます赤木友紀先生をお招きして、オンラインにて講演を開催いたしました。今回の講演では「高い送達効率・汎用性・安全性を兼ね備えた薬剤搭載型バルーンカテーテルの研究開発」というテーマでお話いただきました。

最初に、バルーンカテーテルを使用した治療の対象となる末梢動脈疾患(PAD)について説明いただきました。
PADは、血管内にコレステロールやカルシウムが蓄積しプラークになることで血管内が狭窄してしまう病気です。平成31年のデータによると、患者数は日本国内で350万人、アメリカで850万人、世界規模で見ると2億人以上いると報告されています。
PAD患者は冠動脈や脳梗塞を併発することもあり、その生存率は、5年後は50%程度、10年後は約10%です。
赤木先生は、PAD患者の予後管理の重要性を感じ、治療法の研究に取り組んでいます。

次に、PADの治療法についてお話いただきました。
以前は、腕や太ももの太い血管から患部にバルーンを送達して、狭窄部位でバルーンを拡張し、その拡張力によって狭くなった狭窄部位を治療するという方法が用いられていましたが、1年後の再狭窄率が約50%、膝下に限定すると約80%という問題点がありました。
そのため現在では、薬剤コーティングバルーン(DCB)を使用した治療が多く行われています。バルーンの表面に再狭窄を予防する薬剤を塗布し、通常のバルーンと同様に患部まで送達、バルーンを拡張することで表面に塗布した薬剤を血管内皮に投与するという治療法です。このDCBを使用することで、1年後の再狭窄率は35%程度まで減少することがわかりました。
DCB自体はかなり有効な医療デバイスのように見えますが、塗布した薬剤が患部に届くまでの間に血流中に漏出してしまい、患部に届く量は搭載したうちのわずか数%に過ぎないことや、漏出した薬剤が末梢に詰まり、末梢塞栓症を引き起こすといった問題点も報告されています。
このような問題を解決するためには、薬剤を患部まで確実に送達できるDCBが必要です。

後半では、赤木先生が研究を進めている新しいDCBについて説明いただきました。
既存のDCBでは血流中に薬剤が漏出してしまうという問題点を解決するため、赤木先生は、疾患部位において光照射を行うことで薬剤がリリースされる「リモートコントロール型」のDCBの研究を行っています。
まず、バルーンの表面と薬剤を化学結合することで、患部に届くまでに薬剤が漏出してしまうことを防ぎます。そして、バルーンと薬剤を結合する際に、光照射で化学結合を開裂させる光開裂リンカーを介することで、患部到達後の光照射によって薬剤を放出させるシステムを考案しました。
当初は、PADの治療を目的として研究を進めていましたが、このシステムによってさまざまな薬剤が送達できるようになるため、PADに限らず幅広い疾患に対する治療法となることを期待しています。

最後に設けられた質問コーナーでは「新しいDCBによって、治癒効果はどのくらい改善されると想定しているのか」「光の照射時間はどのくらいか」「光照射を行うデバイスのコストはどの程度になるか」など、たくさんの質問がよせられ、丁寧にお答えいただきました。

赤木先生、ご講演ありがとうございました。

ゲストスピーカー

東北大学 教授
菅野 恵美

研究分野:褥瘡の再発を防ぐナノ型乳酸菌を含有した創傷被覆材の創出

講演の内容

2023年8月の第7回メドテックマッチングでは、スピーカーとして東北大学 教授でいらっしゃいます菅野恵美先生をお招きして、オンラインにて講演を開催いたしました。今回の講演では「褥瘡の再発を防ぐナノ型乳酸菌を含有した創傷被覆材の創出」というテーマでお話いただきました。

まずは、褥瘡が起こる原因と環境についてお話いただきました。
褥瘡は、長時間に渡り皮膚が圧迫されることによって発生する皮膚潰瘍であり、高齢者や痛みを感じ難い脊髄損傷患者における発生率が高いとされています。脊髄損傷患者では、褥瘡の発生に気付いた時には、すでに重篤で再入院が必要となるケースが多く、入院に伴い運動機能が低下することや、休職により経済的困難に陥ることなどが課題です。
また、近年では高齢化に伴い、在宅や介護施設を利用する方が増えてきています。このような場においては、創傷を専門とする医療従事者へのアクセスが遠く、褥瘡の発見が遅れて重篤な損傷となるケースが多いことも報告されています。

次に、褥瘡の治療法について説明いただきました。
現在用いられている代表的な治療法のひとつとして、陰圧閉鎖療法が挙げられます。創部に陰圧をかけて創部の収縮を促すことで褥瘡を治す方法ですが、専用の機器を用いることや、装着箇所の見極め・観察などが必要なこともあり、この治療法が使用されているのは専門的な医療機関に限られます。近年では、外来で使用できる機器の販売も行われていますが、適応は自己管理のできる患者さんに限定されています。

菅野先生はこのような現状を考慮し、どこでも誰でも簡単に使用できて、早期に褥瘡の治療ができる創傷被覆材の開発を目指しています。

最後に、現在、菅野先生が研究開発を進めている「ナノ型乳酸菌を含有した創傷被覆材」について説明いただきました。
ナノ型乳酸菌という加熱殺菌体を含有した創傷被覆材(高度管理医療機器)であり、創部に貼るだけで使用できる点が大きな特徴です。ここで使用されるナノ型乳酸菌はすでにサプリメント等で流通している菌株です。また、通常であれば加熱殺菌体にすると凝集してしまう乳酸菌を、1μm未満のナノサイズにキープすることで、マクロファージ等の細胞が認識し、効率よく活性化できるという特徴があります。
このナノ型乳酸菌を含有した被覆材を創部に貼ることで、治癒しやすい湿潤環境を導きその環境下で治癒が促進しやすい環境を整えることが期待できます。
また、褥瘡に限らず、糖尿病下腿潰瘍や熱傷などの創傷治癒にも使用できるため、広く流通できる製品になるのではないかと考えています。
この製品について、医師や看護師、患者からは「精神科の患者などは陰圧閉鎖療法の機器を外してしまう等の問題があるので、そういった場面に使用してみたい」「在宅療養患者で使用する製品は管理できる人がいないので、より簡便な製品があると良い」「ドラッグストアなどでも購入できると嬉しい」といった期待の声が寄せられています。

最後に設けられた質問コーナーでは「被覆材は一定の期間、貼り付けたままで良いのか」「乳酸菌の生物学的な安全性は確認されているのか」「創傷被覆材のマーケットは競合が多く、新規参入は大変ではないか」など、たくさんの質問がよせられ、丁寧にお答えいただきました。

菅野先生、ご講演ありがとうございました。