2022年3月28日、若手研究者と企業等の交流・連携機会の創出を目的としたマッチングイベント「第4回メドテックマッチング」がオンラインで行われました。このイベントでは、本事業に採択された3名の先生がスピーカーとなり、ご自身の研究に関する講演を行いました。

冒頭ではモデレーターの桐山より事業説明をいたしました。

ゲストスピーカー

秋田大学医学部付属病院
乳腺・内分泌外科

寺田かおり

2022年3月の第4回メドテックマッチングでは、スピーカーとして秋田大学 医学部付属病院 乳腺・内分泌外科の寺田かおり先生をお招きして講演を開催。今回の講演では、「免疫染色とAI診断の融合による新規病理診断機器開発に関する研究」というテーマでお話いただきました。

冒頭は、現在のがん診断の実情と課題についてのお話でした。日本人の2人に1人が「がん」にかかる現代。診療のスタートになる病理診断は10年で2.2倍、そのうち、がんの治療薬を決めるのに重要な検査となる免疫染色は2.8倍と急増しています。しかし、病理専門医は2,500人しかいないため、マンパワーが不足しているのです。なかでも、乳がんは国内で年間約10万人がかかり、国内・世界ともに患者数は最多。そして、乳がんの免疫染色・病理診断には年間約30億円以上もの費用がかかっており、病理医の負担やコスト、時間が膨大となっています。実際の数字を用いて解説していただき、貴重な学びとなりました。

次に、実際の乳がんの病理診断についてお話いただきました。乳がんの病理検査の対象は、乳腺の腫瘍(乳がん)と腋窩リンパ節(わきの下のリンパ節)の2つです。乳がんの免疫染色では、女性ホルモンの受容体(エストロゲンとプロゲステロン)、HER2(がん細胞の膜にあるタンパク)、Ki67(細胞分裂に関わる細胞をあらわす)の4種類を検査しますが、手間がかかるだけでなく診断方法が複雑で、様々な染まり方をする患者さん一人一人を正確に診断するのには大きな労力を要します。また、これらの結果は、がんの治療薬の選択に関わる重要な情報ですので、精度の高い診断が求められます。リンパ節の転移診断、特に手術中に迅速に診断する場合、現在標準的な診断法であるHE染色(ピンクと紫の2色で染色する方法、主に形態を診断する)だけでは診断が難しいケースが一部に存在するため、病理医の診断時の負担となっています。形態を診断するHE染色に対し、免疫染色はがんがあると茶色く染まるためわかりやすく、診断が難しい場合の一助となってくれる可能性はあるのですが、2時間30分もかかってしまうため、手術中に実施するのは困難というのが現状です。

こういった課題をクリアするため、寺田先生のチームでは電界撹拌技術を使った装置を開発し、免疫染色が16分程度で行えるようになりました。また、良好で安定した染色性を保持し、抗原抗体反応が促進されるため抗体量も削減でき、結果として、医療費の削減にもつながります。第8回ものづくり日本大賞の経済産業省大臣賞を獲得し、現在のAI免疫染色診断の精度アップの元になっているとのことです。とても丁寧に教えていただき、興味深く拝見しました。

後半は、迅速免疫染色についての現状や、これからの展望についてのお話でした。現在、秋田大学や神戸大学といった多くの大学、エプソンなどの企業、県でチームを組み、一体となって品質改良や開発に取り組んでいらっしゃいます。さらに、国際学会での発表も行い賞を獲得するなど、活発に活動されています。

迅速免疫染色装置の全自動器機が発売され、ほぼすべての過程を全自動で実施できるようになっており、病理学会でも発表される予定です。また、凍結切片だけではなく、ホルマリン標本での免疫染色もスムーズにできるようになったことから、要素技術としてAI診断に活用していきたいと話されていました。検証では、非常に高精度なデータが入手できており、ただいま特許申請の準備中です。ビジネスモデルとしては、AI診断システムソフトを提供し、保険点数としてのAI診断加算を目標としています。

今回のプロジェクトが成功すると、乳がんだけでなく、胃がんや肺がんなど様々ながんにも応用ができ、さらには、遠隔診断にも役立つと考えられます。市場規模は約70億円以上になると見られ、免疫染色で40億円、標本作成で25億円、病理診断料で4億7,000万円の見込み。現在は特許診断の目前まで来ており、特許取得と同時に共同試験、2023年には診断精度の確立、その後薬事承認、保険収載を目指しています。

質問コーナーでは、電界攪拌と酵素活性、ハイドロゲル両方への応用について質問があり、丁寧にお答えいただきました。

寺田先生、貴重なお話を本当にありがとうございました。

ゲストスピーカー

早稲田大学大学院
情報生産システム研究科
教授

三宅 丈雄

2022年3月の第4回メドテックマッチングでは、スピーカーとして早稲田大学大学院 情報生産システム研究科 教授の三宅丈雄先生をお招きして講演を開催。今回の講演では、「医療用眼計測(治療)レンズの開発」というテーマでお話いただきました。

冒頭のお話は、医療用眼計測レンズの開発に至った経緯についてでした。失明に繋がる目の病気には大きく分けて緑内障と糖尿病網膜症の2種類があり、それぞれ失明原因の1位と2位です。緑内障は眼圧、糖尿病網膜症は涙中糖度を観測して診断します。そこで、手軽に数値を測り診断できるセンサーが必要ではないか、ということで開発を開始。具体的には、市販のコンタクトレンズに設置する眼圧と糖度の計測アンテナ型センサーです。データは無線でチェックするというもので、とても興味深く拝見しました。

次に、詳しい仕組みについてお話いただきました。三宅先生の研究チームでは、コンタクトレンズ上でセンサーを利用するための無線給電開発に力を入れています。2つの共振器によって高周波の磁場を作り、エネルギーのやり取りをするというものです。しかし、コンタクトレンズという非常に小さいスペースでエネルギーのやり取りをしてしまうと、電力の伝送効率が悪く、エネルギーロスが非常に大きくなってしまいます。そこで、独自の回路システムを開発し、レンズに応用することでスムーズな給電が可能となりました。また、特殊な設置技術を用いることで、市販されているどのタイプのコンタクトレンズにも使用できます。細かい部分まで丁寧にご説明いただき、大変勉強になりました。

後半では、前半でご紹介いただいたセンサーの応用として、体内に向けたアプローチについてお話いただきました。糖度センサーを乳酸センサーに置き換え、検出器を体外に設置することで、敗血症の診断に役立てられるそうです。ただし、皮膚が電磁界を吸収し、感度が落ちてしまうという問題もあります。三宅先生のチームでは、検出器のチューニングを変更して、皮膚を挟まない状態とほぼ同等の感度維持に成功しています。

続いて、リアルタイム計測の実証実験についてお話いただきました。現在は、ビーグル犬による実験を山口大学の眼科と獣医学部の先生とともに実施。本来は、人間での使用を目的として開発していましたが、ペットにも使えるのではないかというところから、獣医学部の先生にもご協力いただいています。今は長期的なモニタリングを実施中。幅広く活用できる技術ということが分かり、大変有意義な学びとなりました。

最後の質問コーナーでは、熱による局所的な損傷の有無、耐久性、Googleコンタクトレンズとの競合、電磁波界隈の距離についての質問がありました。それに対し、熱の問題は実験によってクリアしている、耐久性に関しては酵素の寿命という懸念はあるものの、眼圧測定に関しては問題ない、コンタクトレンズの特徴から長くても1週間程度の使用を見込んでおり、その程度の期間であれば問題なく使えるというお答えでした。その他の質問にも、丁寧に分かりやすくお答えいただきました。

三宅先生、貴重なお話をありがとうございました。

ゲストスピーカー

金沢大学
理工研究域
フロンティア工学系

村越 道生

2022年3月の第4回メドテックマッチングでは、スピーカーとして金沢大学 理工研究域 フロンティア工学系の村越道生先生をお招きして講演を開催。今回の講演では、「伝音難聴の簡易非侵襲診断に関する研究開発」というテーマでお話いただきました。

冒頭のお話は、新生児の難聴についてでした。新生児の0.1~0.2%が何らかの難聴をもって生まれてきます。これは、2020年の出生数(約86万人)をもとに推定すると,毎月すべての都道府県で2~3人ずつ難聴の赤ちゃんが生まれてくる計算で、決して少ない数字ではありません。

難聴には「伝音難聴」と「感音難聴」の2種類があります。伝音難聴とは、耳小骨が折れてしまったり、鼓膜が固まってしまったり、中耳炎などによって耳の中で音が伝わりにくくなってしまう症状のことです。感音難聴は、内耳の感覚細胞や聴神経に問題があると発症します。このうち、伝音難聴は手術による治療が可能。よって、どちらの難聴かを正しく診断することは、その後の治療においてとても重要になります。

次に、新生児の聴覚検査についてお話いただきました。日本における新生児聴覚スクリーニングの歴史は浅く、母子健康手帳に「新生児聴覚検査」の欄ができたのは2012年のことです。また、2017年には新生児の聴覚検査の説明が必須になり、2020年には新生児の聴覚検査手引書が行政に向けて発刊されました。こうした取り組みによって、聴覚検査を受ける赤ちゃんの割合は2014年で78.9%だったのに対し、2021年には90.8%に上昇しており、取り組みの成果が見られます。一方、残り10%の赤ちゃんは聴覚検査をしていないことから、今後も何らかのアプローチが必要になると言えるでしょう。

聴覚スクリーニングの結果、再検査になった場合は耳から出てくる音を拾って検査する「耳音響放射」と、刺激音に対する脳波を見る「自動聴性脳幹反応」の2種類の検査を実施。どちらも高感度で優秀な方法ですが、伝音難聴と感音難聴の判別ができないという問題があります。また、精密医療機関での検査においても、新生児への適応が難しい方法しかないのが実情です。聴覚診断の難しさが分かり、貴重な学びとなりました。

後半は、検査後の流れや、現在取り組んでいる研究の詳細についてお話いただきました。

精密検査の結果が正常、または片側難聴であれば復帰、両側難聴の場合は補聴器や人工内耳を使用しての療育が必要となります。しかし、ご両親にかかる負担や不安が大きくなってしまうというのが現実です。そこで村越先生は、伝音難聴と感音難聴の判別を可能にする製品を開発。もし、伝音難聴ということが分かれば、手術による回復が可能となるのです。手術は10歳以上にならないとできませんが、将来の治療に繋がり、ご両親にとっても大きな光となります。

続いて、詳しい仕組みについてお話いただきました。製品は「SFIメーター」と呼ばれるシステムで、イヤホンから音を出し、返ってくる音をマイクで拾って計測。グラフ化した形を見て、原因の特定や中耳状態の診断を行います。たとえば、正常時には1.0kHzから音圧が増大し、その後減少するという変化が見られますが、一方で、離断時には音圧が一気に上昇し、固着時は上昇せずに減少していくだけという特徴があるため、一目で診断できるのです。詳しく教えていただき、興味深く拝見しました。

現在は、すでに生後1週間以内の新生児での測定に成功しています。今後も近隣の病院と連携し、データの計測を継続していく予定です。同時に、東京大学の開発チームにサポートをいただき、製品開発も進行中。また、プロトタイプを作成いただける医療機器開発企業も募集中です。市場規模としては、精密医療機関で3億円、耳鼻咽喉科で117億円、産婦人科で67億円を見込んでいます。

最後に設けた質問コーナーでは、製品使用のタイミングや聞こえ方の違いによる差、携帯での使用、他民族での適用などについて質問があり、丁寧に分かりやすくお答えいただきました。

村越先生、貴重なお話をありがとうございました。