講師

角田皓一会計事務所 代表 税理士・中小企業診断士 角田 皓一 氏

2024年8月のメドテックサロンでは、講師として角田 皓一さんをお招きして、オンラインにて講演を開催いたしました。

講義テーマは「社会実装の手段としてのスタートアップ概論 ~資金調達の基礎と医療機器スタートアップの事例紹介~」です。

「社会実装の方法としてのスタートアップの特徴は?」「スタートアップとは何か?」「頻出論点としての資金調達のポイントは?「医療機器スタートアップの事例は?」という構成でお話いただきました。

まずは、社会実装手段としてのスタートアップの特徴、そしてスタートアップの位置付けについてお話いただきました。

社会実装の手段としては、大きく分けて「①大企業への導出」と「②スタートアップ設立」の2つになります。①に関しては、大学が持つ知的財産を直接大企業にライセンスし、大企業が主体となって社会実装を進める一方、②に関しては、研究者が中心となってスタートアップをつくり、そのスタートアップが中心となって社会実装を進めるという違いがあります。

「誰が社会実装をするのか」という主体の違いを起点として、以下のような違いが発生します。

①大企業への導出
<研究者の視点>
・相対的に研究者の思いを反映させにくい(大企業の意向が重要)
・大企業の経営資源を活用できれば研究者の負担は減少
・研究者の金銭的インセンティブは知的財産権のライセンス料(相対的にリスク・リターンが小さい)
<事業化の観点>
・事業で蓄積した経営資源あり(資金・設備・人材・販売網・信用 等)
・大企業は意志決定に時間がかかる(リスクを回避する)傾向にある
・競合企業とは提携しにくく、大企業の市場シェアが上限になるリスクあり

②スタートアップの設立
<研究者の観点>
・相対的に研究者の思いを反映させやすい(支配株主の意向が重要)
・設立当初は資金力に乏しいため研究者の負担が増える可能性
・研究者の金銭的インセンティブはスタートアップの株式売却益(相対的にリスク・リターンが大きい)
<事業化の観点>
・ゼロから蓄積していく必要あり(まずは資金調達を行う必要あり)
・意志決定をスピーディーに行える(リスクあるチャレンジを許容できる)
・経営基盤が脆弱であるため社会実装に至らないリスクあり

次に、スタートアップとは何か?についてお話いただきました。

スタートアップとは、株式会社を前提としています。会社にはいくつか種類がありますが、株式上場(IPO)が可能なのは「株式会社」です。

スタートアップにおいて株式は、資金調達の手段やインセンティブ付与(チームビルディング)の手段として活用されます。株式はスタートアップの大きな武器となるため、株式というカードを戦略的に使うことが重要です。

続いて、資金調達のポイントとして、株式発行による資金調達・調達額のトレンドについてお話いただきました。

スタートアップの資金調達額(エクイティ)は右肩上がりで増加しているものの、2023年から潮目が変わり、減少しています。この変化はミドル・レイター期(ある程度成長したステージ)の大型資金調達額が減少したことが影響しており、設立後すぐの資金調達環境に大きな変化はみられていないと言われています。

なお、代表的な資金提供者は、VC、CVC/事業会社ですが、創業初期ではエンジェル投資家(個人)も含まれます。資金提供者それぞれで投資基準(=訴求ポイント)が異なっているので、どういうシナリオで説得するのかを考えなければいけません。

講義の最後に、医療機器スタートアップの事例について、M&Aの事例として手術支援ロボットのA-Traction、IPOの事例として治療用アプリのSUSMEDを公開情報からの分析し、ご紹介いただきました。

手術支援ロボットのA-Traction、治療用アプリのSUSMEDは、いずれも薬事承認申請前(実証実験の成功)に大企業との買収、提携に至りました。

・A-Traction:2015年8月設立した同社は、手術支援ロボットの開発を行っている途中である2021年7月に医療機器メーカーの朝日インテックに買収されました。買収後、2023年2月に医療機器の製造販売承認を取得しました。

・サスメドは医師の上野氏により設立され、「治療用のスマートフォンアプリの開発」と「薬品開発の効率化システムの提供」の2つの事業により成長した会社です。設立後は、第7期目にあたる2021年12月に東証(現・グロース市場)に上場しました。同社は不眠治療用アプリの薬事承認申請前(2021年12月)に塩野義製薬に対して国内の独占販売権を付与し、その対価として契約時一時金(2億円)マイルストーン報酬(最大47億円)、ロイヤリティを得る販売提携をしました。

最後の質疑応答では、大学発で立ち上げたスタートアップの初期メンバーの給与/報酬の水準、会社の評価額(バリュエーション)の基準や交渉方法、創業者が持つ株式の一部を売却できる可能性などの質問が上がりました。

角田さん、ありがとうございました。