「Medtech Academy Pitch Day 2022」2日目は、前半に8名の方によるピッチ、後半にディスカッションを実施しました。
まずは、8名の方によるピッチについてご紹介します。
秋田大学 医学部附属病院 乳腺・内分泌外科 寺田 かおり先生
免疫染色とAI診断についてお話されました。今や日本人の2人に1人が「がん」にかかる時代。そして、がん診断のスタートは病理診断です。がんの病理診断数は10年で2.2倍の476万件、なかでも免疫染色診断は2.8倍の43万件に急増しています。しかし、病理専門医は2,500人しかおらず、体制が整っているとは言えません。そこで寺田先生は、乳がんの免疫染色を診断するAIの開発をされています。現在は特許申請をしており、製造販売企業を選定。2026年までの薬事申請を目指しています。
京都大学 大学院工学研究科 准教授 久保 拓也先生
高通水性分子機材を使ったスクリーニングデバイスの開発研究をされています。国内で年間2,000人がかかる筋炎は、受診から抗体検査の結果判明まで早くても1週間かかり、その間に呼吸困難に陥って緊急入院となることもあります。検査ではいくつかの抗体を調べなければならず、どうしても時間がかかってしまいます。久保先生は、液体を流すことで物質を捕まえる装置を並列させ、複数の成分を同時に数時間で検査できるシステムの開発研究をされています。今後は、医療機器メーカーと連携し、プロジェクトの推進を予定しています。
国立大学法人 東海国立大学機構 名古屋大学 大学院創薬科学研究科 助教 蟹江 慧先生
蟹江先生は、ペプチド網羅探索によるハイパーフレシキブル骨再生マテリアルの研究をしています。なんらかの原因によって骨を失うことは、若い方でも発生しうる事象です。その場合の治療としては、顆粒状の補填剤を使うケースがほとんどで、治療の安定性や効率、骨再生が低いという課題があります。そこで、合成高分子とペプチドを使い、操作性と骨再生を併せ持った補填材の開発をされています。まずは歯科領域から研究開発を進め、将来的には椎間板ヘルニアなどの治療に役立てていきたいそうです。
大阪大学 大学院工学研究科応用化学専攻 松崎 典弥先生
抗がん剤治療は爪の変色や皮疹、脱毛など、多くの外見変化を引き起こします。しかし、大変な思いをして治療をしても、抗がん剤が効かないこともあるのが実情です。がんは患者さんごとに特性が異なるため、個別化医療が求められていますが、現行の遺伝子パネル検査では正確性やコスト、期間などに問題があります。松崎先生は、こういった課題を解決するため、がん細胞を培養し、抗がん剤の有効性を調べる装置を開発。現在は、技術を活用するためのパートナーを探している段階です。
早稲田大学 教授 三宅 丈雄先生
三宅先生には、失明を予防するための電子コンタクトレンズについてお話いただきました。60歳以上で失明を伴う病気にかかる割合は、1/10と言われています。原因は、1位が緑内障、2位が糖尿病です。それぞれ眼圧や糖度を調べることで検査をしていますが、医療機関の受診が必須となり、針を刺すなどの課題があります。そこで三宅先生は、電子コンタクトレンズという、目に触れられる医療機器の開発に取り組んでいます。現在は、1枚当たりの価格を抑えるという課題に対してのアプローチを行うとともに、製造企業の募集をしておられます。
産業技術総合研究所 健康医工学研究部門 人工臓器研究グループ 上級主任研究員 小阪 亮先生
日本国内における肺移植希望者が1年以内に移植を受けられる確率は12%、移植までの待機期間は平均で2年5カ月、待機中に死亡する割合は4割に上るそうです。日本ではドナー不足が問題になっていますが、アメリカでは8割ものドナー肺が保存時間の制限や管理中の肺機能不全により廃棄されています。小阪先生は、人工臓器の知能化・機能化技術を用いて効率的に臓器を活用するための研究をしています。体外に取り出したドナー肺を、生体内を模擬した体外灌流装置に接続することで、肺の長期保存や移植後の肺機能を評価することを可能にするものです。現在は、豚の肺を使った研究に成功しており、治験や承認に向けて準備を進めています。
東京工業大学 生命理工学院 准教授 藤枝 俊宣先生
藤枝先生は、てんかん診断治療の医療機器研究をされています。てんかんは、いつ発作が起きるか分からない病気です。患者さんは常に不安を抱えており、現在は薬による治療がメインですが、症状が抑えられないこともあるのが実情で、そうした場合には、電気刺激による治療が行われます。しかし、電極の配置が困難であることや脳圧の上昇、吐き気といった症状が出てしまう課題があります。そこで、脳内を圧迫しない、自在に形を変えられる電極の開発に努めています。すでにラットでの検証に成功。ワイヤレス治療を目指し、今後も研究を進めていきます。
大阪大学 理学研究科 大塚 洋一先生
拡張型心筋症(DCM)は心臓が肥大化し、左心室の活動が弱体化する病気です。国内では5万人、世界では380万人の患者さんがいます。未解明な部分が多く、重症化すると心臓移植以外に治療方法はありません。診断も難しく、心不全を引き起こしても原因不明とされてしまう場合も多いのです。大塚先生は、病理診断では捉えきれない化学成分群を見て調べる方法を開発しています。質量分析をイメージング化する独自技術を生み出し、高精度の計測システムの開発に成功。今後は2024年にビジネスモデルを確定、2026年からの社会実装を目指しています。
続くパネルディスカッションでは「研究者は事業化にどう向き合うか」というテーマについて、株式会社PROVIGATEの関水康伸様、東京大学 本郷テックガレージ ディレクターの松井克文様、早稲田大学 教授の三宅丈雄先生、東京工業大学 准教授の藤枝俊宣先生にお話をいただきました。
最初に、関水様と松井様に取り組んでいるテーマについて、ショートプレゼンテーションをしていただきました。関水様のPROVIGATEでは、糖尿病患者さんに向けた行動変容システムを開発しています。糖尿病の方が安定して血糖値測定をし、症状改善に向けた動きができるようなサービスの提供を目指しているとのことです。
松井様のテックガレージでは、学生のサイドプロジェクトにフォーカスしています。卒業生や現役生が、技術的なサイドプロジェクトを行うための秘密基地です。夏季、春季休暇に実施される2ヶ月のプログラムでは30万円までの支援を行い、研究や開発に打ち込める環境を提供しています。
パネルディスカッションのはじめは、藤枝先生に事業化に関する葛藤やジレンマをお伺いしました。研究者はメジャーサイエンスを把握し、論文を出すことを仕事としています。一方で、それらがどれだけ患者さんのところに届いているのかに関しては、ジレンマを感じていたそうです。事業化にはニーズの把握が必要で、この視点は論文にも活用していけるのではないかとお話されました。
続いて、三宅先生にもお話を伺いました。開発をしている電子コンタクトレンズについて、論文化することをメンバーに伝えたところ「公になってしまう」という反応があったそうです。こうしたことから、サイレントで研究し、特許やビジネスで利益を生み出す流れも大事だと学ばれました。一方で、任期付きの研究者は論文という成果を出さないと次がないため、なかなか難しい現状があるそうです。
次のテーマでは、事業化に向けた人材交流についてお話を伺いました。松井様は、10年後の起業家人材創出をミッションとしているものの、足元のプロジェクトでは事業化を目的としていません。この点については、モノ作りを続けたい学生に対して「まず、作ってみてから雰囲気でスタートアップにつなげる。作り続けるためには、お金のことも考えなければならないということを分かってもらう」といった流れで、起業家マインドを植え付けているとのことでした。
関水様には、シニアの人材交流についてお聞きしました。アメリカでは投資家が社長を務め、ある程度育ったら他の方を連れてくる流れができていますが、日本にそのまま反映させるのは難しいと言えます。そのため、日本ならではのやり方でシニア人材の登用方法を考える必要があるのです。高度成長期に活躍された方が大企業にはたくさんいるので、そういった方をどうやって流動化・活用させるかがポイントになると教えていただきました。
他にも、若手のチームビルディングに関する人材交流や投資家との接し方に関する懸念、人材育成の仕組みづくりなどについてお話いたしました。
ご参加された先生方、本当にありがとうございました。