マッチングによる実践的な事業化支援とネットワークの構築

2021年6月23日、若手研究者と企業等の交流・連携機会の創出を目的としたマッチングイベント「第3回メドテックマッチング 若手研究者による革新的診断機器開発への挑戦:がん・免疫・リハビリ分野の応用」がオンラインで行われました。このイベントでは、本事業に採択された2名の先生がスピーカーとなり、ご自身の研究に関する講演を行いました。

冒頭ではモデレーターの柿花より事業説明を致しました。

高通水性高分子基材を用いた疾患マーカー迅速スクリーニングデバイスに関する研究開発
久保 拓也


フレイル早期発見のためのパッチ型筋質センサの開発
竹井 裕介

ゲストスピーカー

京都大学
大学院工学研究科 材料化学専攻
准教授

久保 拓也

研究分野:液相分離化学、分子認識化学、機能性高分子

講演の内容

2021年6月の第3回メドテックマッチングでは、スピーカーとして京都大学 大学院工学研究科 准教授でいらっしゃいます久保拓也先生をお招きして、オンラインにて講演を開催致しました。今回の講演では、「高通水性高分子基材を用いた疾患マーカー迅速スクリーニングデバイスに関する研究開発」というテーマでお話しいただきました。

冒頭では、久保先生の主な研究テーマをご紹介いただきました。久保先生は、液相分離化学における分離場の構築を主な研究テーマとされていらっしゃいます。具体的には、「ナノ炭素材料を利用したTT相互作用の解明」「分子認識材料を利用した選択的分離剤の開発」「超多孔性基材によるバイオ関連物質の高速分離」が挙げられるそうです。今回採択されたテーマの元になる「超多孔性基材によるバイオ関連物質の高速分離」のバッググラウンドについて、多くの写真やイラスト、グラフなどを用いて解説していただきました。今回のスポンジモノリスは、タンパク質が低下する足場として非常に有用であり、かつタンパク質が分子認識能を保ったまま固定化できるため、これを医療機器開発につなげられないかと考えられているということです。とても丁寧に解説してくださり、興味深く拝見しました。

続いて、基本技術の概要・SPMのバイオ関連技術への応用について解説いただきました。「イムノグロブリンG(IgG)の高速分離」「消化酵素によるオンライン消化」「レクチン固定化による糖鎖認識」「自在形体」などがあるそうです。大切なのは、任意のタンパク質をその機能を保持したままSPM基材表面に効率的に固定化できることだとおっしゃっていました。実際の事例を挙げながら詳説していただき、貴重な学びになりました。

後半では、前半でお話しいただいた前提の元、今回の研究の概要・検討課題についてご説明をいただきました。一つのサンプルから複数の成分を同時に定量的に検出できるという提案をされたそうです。現在は、「どこにニーズがあるのか」が検討課題になっているということで、既存法との違い・メリットを具体的に教えてくださいました。

続いて、1年目の結果としてSPM集積デバイスモジュールの試作について、実際の写真と共に見せていただきました。免疫グロブリンファミリーに対するSPM作製、自己免疫疾患・膠原病抗体に対するSPM作製にターゲットをおかれてるとのことでした。また、Anti-固定化カラムの作製について実際の評価と共に解説いただきました。ヒアリング等を経て、筋炎を疾患のターゲット抗体にされたそうです。マーケットとしてはあまり大きくないものの、その分手が届いていない領域であるため、研究のコンセプトが役立つのではないかとおっしゃっていました。実際の検査の流れについても、図を用いて詳しく解説していただきました。検査時間・検査費の低減が課題となっているそうです。事業戦略についても、競合技術との分析も踏まえて図を用いて説明してくださり、とても分かりやすくイメージすることができました。終盤では、久保先生が行われているその他の研究についてもご紹介くださいました。

最後に設けていただいた質問コーナーでは、「粘度の高い、かつ数十マイクロメートルの固形物の含まれた検体を流した場合はどうなるか」「フローサイトメトリーを用いたものも競合になり得るか」等の質問があり、実際の研究結果などを踏まえてご回答いただきました。久保先生からのメッセージとして、医療機器開発への取り組みは初めてなので、実際の現場で開発されている方や検査機関の方などから進め方などに関するご意見をいただきたいとおっしゃっていました。また、機械メーカーなどの企業様にご協力いただければ、実用化に向けて加速すると思いますとのことでした。

久保先生、ご講演ありがとうございました。

ゲストスピーカー

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 
センシングシステム研究センター
主任研究員

竹井 裕介 

研究分野:MEMS、センシングデバイス、生体計測

講演の内容

2021年6月の第3回メドテックマッチングでは、スピーカーとして国立研究開発法人 産業技術総合研究所 センシングシステム研究センター主任研究員の竹井裕介先生をお招きして、オンラインにて講演を開催致しました。今回の講演では、「フレイル早期発見のためのパッチ型筋質センサの開発」というテーマで、トピックとして「『食べる』を測る」「筋肉の声を聴く」という2点を挙げてご説明いただきました。

冒頭では、MEMSセンサを基盤とした生体計測・シリコンのピエゾ抵抗効果を用いたMEMS力センサ・界面に働く力に着目したスポーツ工学について、実際の写真等を用いてご紹介いただきました。竹井先生は、「『食べる』を測ること」に、10年以上にわたり取り組まれており、研究の目的として誤嚥リスクの低減を挙げていらっしゃいます。誤嚥を減らすためには、まず「食べ方」「飲み込み方」を定量的に評価することが必要だそうです。「噛む」ことについては、食感・咬合力に分けて、イラストや写真、実際の実験結果の数値等を用いて詳説していただきました。嚥下の正常時と異常時を計測された際のデータや再現動画を見せていただき、貴重な学びとなりました。試験結果を活用した製品も実際に販売されているとおっしゃっていました。嚥下力診断システムは、侵襲性の低い舌の運動力を評価することが研究目的ということで、実際のデータも見せてくださいました。このような研究データは、食品開発における評価指標にも活用されているとおっしゃっており、研究をとても身近に感じることができました。

後半では、「筋肉の声を聴く」というトピックについてお話いただきました。筋肉の声を聴くことで筋肉の特性や筋疲労・コリなどの様々なことがわかるそうです。研究の概要としては、「アクティブ筋音センシング」といって、電気刺激による筋収縮を筋音で計測すると説明してくださいました。研究背景としては、健康寿命の延長のために筋力の低下を早期評価する方法が必要だとおっしゃっていました。

フレイルの診断方法として簡易筋力測定・握力測定・歩行速度などがありますが、計測対象者の意志が介在するため計測再現性が低いという問題点があるそうです。そこで、竹井先生は再現性のある筋収縮を得るために電気刺激に着目され、高い計測再現性を実現されました。電気刺激と組み合わせて計測するため、干渉しない筋音に着目されたという経緯を明かしてくださいました。近年の研究成果により、筋音は一種の圧力波(機械的信号)であるという見方に統一されつつありMMGと呼ばれているそうです。筋音発生機序・実際のアクティブ筋音センシング例や、実際の筋肉の音も聞かせていただき、とても興味深く拝見しました。

最後に設けていただいた質問コーナーでは、「喉が渇いた状態とそうでない状況での嚥下の違いはセンサで読み取れるのか」「現実的に意志力を含めた筋力ではないか」などの質問があり、丁寧にご回答いただきました。

竹井先生からのメッセージとして、シーズ技術から始まり狭いところで研究を進めてきたので、今後は色々な方のご意見を伺いながら進めていきたい、医療機器に限らず幅広く進めていきたいとおっしゃっていました。

竹井先生、ご講演ありがとうございました。