講師

高崎健康福祉大学 健康福祉学部医療情報学科 木村 憲洋氏

2024年9月のメドテックサロンでは、講師として高崎健康福祉大学 健康福祉学部医療情報学科 木村憲洋さんをお招きして、オンラインにて講演を開催いたしました。

講義テーマは「医療機関が新しいデバイスやサービス採用に関する意思決定のキーポイント」です。
「医療機関の本質」「医療機関に対する商品・サービス」「医療機関の経営とは」「医療の質の考え方」「国民医療費の現状」「医療と介護の方向性」「病院の財務の特徴」という流れで進めていただきました。

まずは「医療機関の本質」についてです。医療機関の意思決定では、何が重要なのかについてお話しいただきました。医療機関経営では、「何のためにビジネスをやっているか」という本質的な部分を理解する必要があります。
基本的には、医療の質と医療提供の効率性を上げ、利益を上げていくことをアウトカムとして医療機関の経営を行っていくため、例えば、採算が合わなくても患者のためにものを買うというのはありうる話で、先を見て投資をしているものとなります。

次の「医療機関に対する商品・サービス」では、売れるもの・売れないものについてお話しいただきました。

<売れるもの>

  • 経営的にメリットがあるもの:導入すると利益が出る
  • 臨床的に圧倒的に意義があるもの:患者の予後がいいことがはっきりとしている
  • 医療従事者個人にメリットがあるもの:気分が良い・経済的にメリットがある

<売れないもの>

  • 経営的にメリットがないもの:導入しても利益が出ない・損失が出る
  • 医療における安全が脅かされるもの:名前が似ているものがすでにあるなど
  • 医療機関におけるサービス提供が複雑になるもの:他の医療従事者の手間が増えるなど

導入を決めているのは経営者であるため、経営者目線でいくと利益に目がいきがちです。また、医療業界の良くない部分ではありますが、「医師の気分が良い」という理由でもものが売れることが多々あります。
逆に売れないものというのは、入れるとマイナスになるものやプラスに向かないものです。こういったものは経営会議ではねられるため、基本的には買われることはありません。また、良いものであっても現在流通しているものに名前が似ている場合は、指示をしたときに誤認される可能性があるため売れません。これは医療安全のガイドラインで決められています。加えて、手間が増えるものに関しても、医療事故につながる可能性が増えるため購入されません。

近年、医療系の業者が増えており病院にものを売ろうとしますが、そういった人たちはそもそも購買決定者を理解していないことがよくあります。医療機関における購買決定者というのは、最終的には院長や理事長となりますが、購買決定者たちにメリットがないものは基本的には買われません。そのため、経営戦略についての知識も持っておくことが大事です。

一方で、医師が欲しいものというのは「臨床上、使ってみたいもの」です。大学病院の場合は厚生科研費や文部科研費があるため研究費としてものが買え、なおかつ採算が合わなくても問題ありません。ところが経営に関わるような場合は、自分たちの予算のなかで採算が合うようにしなければいけません。

これらの違いが「売れるもの」と「売れないもの」の違いとなっています。

講義の後半では、「医療と介護の方向性」についてお話しいただきました。現在、さまざまなデバイスメーカーが力を入れているのが「介護」の分野です。
高齢者サービスというのは2000年以前までは医療分野で行われていましたが、介護保険ができた2000年以降、医療依存度が低い人たちは介護分野の方に押し出されるかたちになりました。
そして現在、国の意向で高齢者サービスは介護分野の方に移行が進められており、介護の場に医療がシフトしつつあります。将来的には、さらに国民医療費を減らすために高齢者サービスは介護分野にシフトされていき、介護の場に医療依存度の高い人が増えていくため、そういった人たちへの対応が難しくなり離職が増えると予想されます。

講演の最後には、「ターゲットとして考えるべきなのは病院なのか医師なのか」「病院経営側はどういった購入判断で購入を決めているのか」といった質問が寄せられました。

木村さん、ありがとうございました。