講師

メディエライト合同会社 代表 中村亮一 氏

2024年6月のメドテックサロンでは、講師としてメディエライト合同会社 代表の中村亮一さんをお招きして、オンラインにて講演を開催いたしました。

講義テーマは「共感×学術研究による医療製品開発 〜実例によるデザイン思考・オープン開発戦略の理解とその功罪〜」です。
「『共感』と『デザイン思考』『プロセスエコノミー』」「事例に基づく共感×学術でのオープン型開発のポイント」「オープン開発環境での共感×学術PJ推進上の注意点」という流れでお話いただきました。

最初に「共感」をキーワードに、どういった開発が適しているかについてお話いただきました。

組織における「信頼」の構築・再構築の話題を元に、信頼される医療機器とは、ユーザー(医療従事者と患者)に対して誠実であり、科学的・技術的に正しく(論理的であり)ユーザーへの共感のある機器であると中村氏は定義しました。この「共感」は、デザイン思考においてはユーザーの困りごとを自分事として捉えるような深い共感によってニーズを深掘りするプロセスを指します。

BIODESIGNにおいての「共感」についても同じで、臨床現場での本質的なニーズを深掘りすることが重要です。本当に機器での解決が必要なのか(現場の工夫で何とかならないのか)、個別ニーズではなく普遍的なニーズか(その先生だけが欲しいのではなく、日本中/世界中で要望があるものか)といったことが満たされなければ誰も救われず、ビジネスとしても成り立ちません。

そのためのプロセスは、デザイン思考で示される「共感→課題定義→解決案→試作→検証→評価」となりますが、この過程はリニアではなく繰り返しのトライアルが重要です。ニーズの深掘りもシーズの強化も絶え間のない繰り返しが求められます。

一方で、ユーザーからの共感も重要です。ユーザーからの共感がなければ買ってもらえませんし、最後まで走りきれません。従来、製品というものはその性能が第一で、アウトプットとしてもたらされる価値によって製品の価値が決まっていましたが、現在は技術が非常に上がっているので特に医療機器の場合は競合が必ず出ます。性能は上がる一方で価格はどんどん下がっているため、どれも同じような製品になりがちです。つまり、「どれを買うか」を決める要素が製品の性能だけではなくなっている状況になっています。

そこで重要になるのが、アウトプットだけではなくそのほかの部分でも共感を獲得し購買意欲を刺激すること=「プロセスエコノミー」的なアプローチです。これは、アウトプットや性能そのものではなく、そこに至るまでのプロセス・ストーリーによってサービスの魅力を向上し、ユーザーの共感を獲得し、購買行動に結びつけるというものです。

そういった「共感」を強化する実践例として、中村氏の過去の製品共同開発事例を元に、学会や展示会の活用の有効性が示されました。開発段階の時期にオープンな議論ができ、将来的にはユーザーとなりうる方々からニーズの深掘りとシーズ・製品試作の評価が得られます。また、早いうちにユーザーに対してアピールしておくことが、ユーザーからの共感を得るプロセスにおいても重要になってきます。

学会以外で短期間に数百~数千の医療従事者の目に触れる・体験させる場は他にはないため、研究者にとっては非常に大きな強みだと言えます。また、試作品(≒研究開発中技術)の展示が許容されるので、性能的に足りていないものを持って行くことに抵抗がありません。

一方で学会等で開発過程をオープンにすることには、競合・模倣など競争上の困難に繋がるリスクがあります。また未承認医療機器に対する薬機法上の制限にも対応しなくてはなりません。この面での対策として、学術界の活用とプロセスエコノミー的アプローチの重要性が再度強調されるとともに、標準化(JIS規格策定)による参入障壁形成についても解説されました。

次に、「デザイン思考がなぜ役に立たないのか」についてお話しいただきました。デザイン思考が機能しない原因は3つあります。

  • デザイナーとしての能力不足:誰でも優れたデザイナーになれるわけではない
  • Post-it文化、「共感」に熱中しすぎて途中で力尽きる
  • 経営(実装・普及・定着)のフェーズの軽視

特に、経営面をどうするかという点については、早い段階から考えておかなければいけません。バイオデザインでもマーケット分析や売り方等は学んではいるものの、実践まで進めるというのは研究者には難しい課題となっています。

講演の最後には、「医療機器開発においては前例のある規格に沿って開発しなくてはいけない、もしくは新規の場合でもPMDの規格に縛られると思いますが、そういったものでもJIS規格が出せるのでしょうか」や、「ニーズを捉えた医療従事者側がそれを伝えるための工夫は何かありますか」といったご質問が出ました。

中村さん、ありがとうございました。